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4.ゆるキャラは戸惑いのラブストーリー
「オ、オレさ、将来スタントマンになりたいんだ」
オレは夏野海に聞かせるでもなくつぶやいた。
バイト場の鷲野城は山の上にある。
その道を夏野海と歩きながら下りてゆく。
「そうね、知ってるわよ。
だって青葉君、学校でも
『オレは世界一のスタントマンになる』って
友達に叫んでいるし、
お昼にこっそり牛乳飲んで背を高くしようとしているし
部活も体操部をえらんでいるし、
それから・・・」
「わー止めてくれ!お前なんなんだよ。
今までオレがスタントマンになると言っても
『ふーん』て感じだったじゃないか」
オレは真っ赤になって海に詰め寄る。
すると海は、
「だって、面白くなかったんだもん」
「へ?面白くなかった?」
「そうよ。青葉君は自分の夢を追うのに
夢中で私が入る間がないじゃない。
青葉君の心の中に」
オレ達は立ち止まった。
海はオレの頭一つ分背が低い。
海は俺を見上げて
「ね、キスしてもいい?」
「あ、ああ」
オレはぎゅっと目をつぶった。
そしてまた桃の香りが鼻腔をくすぐった。
俺はおそるおそる目を開けた。
そこにはじっとオレをみつめる海がいた。
オレは・・・
「抱きしめていいかな?」
うんと頷く海。
オレは卵が壊れないような気持ちで
そっと海を抱きしめた。
そして海の耳元に
「オレさぁ、馬鹿だから夢中になったら
それしか目に入らないんだ。
そんなオレでもいいか?」
「うん、知ってる。
だから私、一生懸命私を見てって足を引っ張るけど
応援もする」
「ははは、そうか、こわいなぁ」
「そ、恋する女の子はこわいのよ」
オレは抱きしめた腕を海から離して
海の左手を握った。
「帰ろうか、海」
「うん、青葉君」
オレ達は無言で並んで歩いた。
夕陽に照らされた海は今までと違って
綺麗だなと思いながら。
了
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