6.ゆるキャラは春の眠気に勝てない

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6.ゆるキャラは春の眠気に勝てない

鷲野城。 ここはオレ、桜木青葉のアルバイト場だ。 そう、オレはここでゆるキャラの『ワシにゃん』の 着ぐるみを着て戦国戦隊ショーをしている。 「ふわぁ・・・」 眠い。 何しろ今日は近くのお寺があって お釈迦様の誕生日4月8日で 花まつりが行われている。 大抵の人にはなじみがないだろうが うちの街では江戸時代に歴代藩主が 大切にしていたせいもありお祝いが盛んだ。 学校も入学式があったりして 今日は鷲野城まで登ってくる人は少ないというか いない。 オレは先輩の許しを得て、 大きな松の木の根元で参考書を開いていた。 だけど春の麗らかな陽射しが 睡魔を呼び寄せページが一向に進まない。 「何やってんの?」 頭の上から声がする。夏野 海、オレの彼女だ。 「見ての通り勉強中」 すると海は俺の隣にすり寄るように座り込んで 「全然進んでいるようにみえませんけれどぉ」 「うん、眠い」 「ふふ、じゃぁお饅頭あげる。お茶もあるよ」 「お、花まつりの屋台で買ったの」 「うん、どうせ誰もこないのにここにいるだろうなと 思ったから。小腹すいたでしょ」 「おお、サンキューな。 あ、じゃぁ食べたらワシにゃんのアクション するから観てくれないかな」 「うん、いいよ。 だけどこの後、夜の花まつりいこうね」 「ああ、でもオレ汗臭くね」 「消臭剤持ってきてるから大丈夫」 「なんか嬉しいんだか嬉しくないんだか・・・ ま、いいや。花まつりで誕生仏像に柄杓で甘茶を掛けて お祝いしたらうまいもん食おうぜ」 「ふふ、食べ盛りなんだから。 いいわ、私おごってあげる」 「本当かっ。やったぁ」 オレは食べ物でつられているような気がしたが、 海とデートができるので ま、いいかと思った。 そしていたずら心で海の桜色のほっぺたに ちゅっとキスをした。 海は驚いた顔をした。 「海は桜餅の香りがするな」 「何それ」 「いや、食べたいなぁと思って」 「分ったわ。買ってあげる」 春の眠気はどこかへ行ってしまった。 了
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