7.ゆるキャラは逃走をあきらめる

1/1
前へ
/22ページ
次へ

7.ゆるキャラは逃走をあきらめる

春はあけぼの・・・(眠い・・・) 「青葉君、青葉君、もうお昼だよ」 やうやう白くなりゆく・・・(俺の頭はまだ朝だ・・・) 「青葉君、起きないと 大好きな蒼月 譲の演じたキャラのぬいぐるみが 悪の組織に連れ去られちゃうぞ~」 オレはガバっとベッドから飛び起きると、 恋人の夏野 海がにやりと笑い、 ぬいぐるみを自分の前に置いて 手を取って 「助けて青葉君。悪の女幹部に もふもふされてしまう~」 とぬいぐるみの口パクをしゃべっている。 オレは寝起きの髪をくしゃくしゃにすると 「海~。何度言えば分かるんだよ。 男の部屋に勝手に入るなよな」 「だって下でお茶して待っても 一向に青葉君来ないんだもん。 青葉君のお母さんにちゃんと断って ついでに部屋のドアを叩いて 中に入ったよ」 「男だってなぁ。部屋の掃除したり 準備っていうものがあるのっ」 「ああ、それで消臭剤のフレッシュキレイ―ズ があるんだ。 だけど、これ量が減ってないよ」 「うわぁ、そんなの見るなよ。 お前にはデカレシーがないのかっ」 「デリカシーでしょ。今更だよねぇ。 蒼月 譲くん❤」 海はオレの憧れのスーツアクター 蒼月 譲の演じたキャラのぬいぐるみに 話しかけて、くんくんと匂いを嗅ぐ。 「お、おま何をやっているんだ?」 「うーん、ちゃんとフレッシュキレイ―ズ 使っているか確認してたの。 なんか青葉君の匂いがする。 むぅ、許し難し!えいえいっ」 海はぬいぐるみを持って、 ぽかぽかと俺を打ってくる。 「さてはこのぬいぐるみを抱きしめて 寝ているでしょう?」 「いや、してねーから。 今もお前、座布団に置かれていた所から ぬいぐるみ取ったじゃねーか。 う、うわぁ」 オレは海にぬいぐるみごとのしかかられて 転んだ。 「海ぃ。オレ、これでもみならいスタントマンなの。 本気出すぞ」 わざと少し低い声で言うと 海が少し小首を傾げて、 「本気?出してみて、ね」 「うっ」 オレは言葉に詰まった。 「そ、それじゃぁ本気出すからな。 ホントだぞホントだからなっ」 そう言って、オレは海との間のぬいぐるみを 脇に置いて・・・ 海との距離を縮めて・・・ 春はあけぼの やうやう白くなりゆく・・・ 了
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加