1.ゆるキャラは眠れない

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1.ゆるキャラは眠れない

桜木青葉は男だが、いつも名前で女の子と間違えられる。 そんな時、高校入学で同じクラスになった夏野海と 名前の苦労が縁で仲良くなっていた。 夏休み。 青葉は将来スタントマンを目指すべく、 地元の観光地、鷲野城でゆるキャラの『ワシにゃん』を演じる アルバイトに精を出していた。 そんなある日、気温は40度越え。 『ワシにゃん』の中は蒸し暑いを通り越して熱波だった。 主催者側も人命に関わるからと30分に一度15分の休憩を入れ 人気の無い所にテントを張って休息できるようにしてくれた。 扇風機も回してくれた。ありがたや。 城の城門近くの広場で、鷲野城の歴史で名の知れた『鷲野城組』が 悪の忍者と戦うショーを繰り広げていた。 『ワシにゃん』の頭部を脱いで扇風機の風にあたりながら、 (ああ、本当だったらショーに出れたのにな) そうぼやいて静かに目を閉じる。 「青葉君、いる?てあれ、寝ちゃったのか」 オレは寝たふりをしながら (え?なんでこんな所に海が来るんだよ) と内心ドキドキしていた。 「折角青葉君に差し入れ持ってきたのに。 ・・・そうだ!」 なんかガサゴソ音がして、突然頬に冷たい物が押し付けられた。 それはそーっと頬を下へたどって首筋へとぴたりと当てられた。 ゾクっとしたけれど、オレは我慢して寝たふりを続けた。 「むぅ〜、これでも起きませんか。 それじゃぁ、遠慮なく」 すると唇に柔らかい何かが触れた。 桃の香りがする何か。 オレはもう少しで飛び起きそうになったが どうしていいのか頭が混乱して 目を固くつぶることにした。 「あ〜あ、つまんないの。 王子様はお姫様のキスで目を覚ますのにね」 美女と野獣か! そんなことよりこの事態を説明してほしいようなしてほしくないような オレの気持ちをどうにかしてくれ。 「青葉君、お・や・す・み♪」 そう言って、ぱたぱたと夏野海はどこかえ行ってしまった。 オレは相変わらず寝たふりをした。 扇風機が音を立てながら回っていた。 了
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