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国が落ち着くまで、何年も月日が流れました。
少女は大人になり、久々に祖国へ帰れることとなりました。
剣は手放し、鎧も奪われ、彼女はもはや兵士ではありませんでした。
記憶と違う町並みは、戦を忘れたように賑わっておりました。
街は様々な花で彩られており、傷ついた人々の心を癒しています。
心地よい芳香に紛れ、人々の噂が漂います。
町はずれの一軒。そこはこの国の中で一番花が咲き誇っていて、一人の男が全て世話をしているのだと。
噂を聞いた女性は、駆け出しました。
懐かしい、淡い香りが彼女を誘います。
踏みならされた小道を進むと、小さな家がありました。
赤、藍、橙、碧、紫。色とりどりの花弁が風に揺れています。
一番多いのは、黄色です。
家の周りを、黄色い花が飾っていました。
季節はすっかり、春でした。
「やあ、久しぶり」
かつての王子が、庭で花の手入れをしておりました。
衣装はすっかり古い安物、住んでいる所もお城から小さな家に変わっていました。
ただ、優しい笑顔は昔のままでした。
「あれから君のくれた花は枯れてしまったけど、それは実を結び、種を作り、芽を出して、こうして毎年咲き続けている」
彼は花をいくつか、摘み取ります。
その中にはあの、黄色い花もありました。
「僕はもう王子ではない。綺麗な服も豪華な城住まいも失った。それでも君が望んでくれるなら、一緒に同じ花壇を見つめて、世話をして、そうして過ごしていきたいよ」
王子だった青年は花束を作り、差し出しました。
「どうか、僕の花嫁になってください」
彼女は何度も瞬きをしました。
震える手で、花を受け取りました。
そして、かつての少女は花のような笑顔を浮かべました。
それ以降、この国では。
黄色い花をブーケにする花嫁が多いのです。
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