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誰からも忘れ去られたような、お城の隅にある小さな花壇。
六番目の王子はそこを大層気に入っていました。
年老いた庭師から種を分けてもらい、毎日毎日一生懸命世話をするのです。
ささやかな花壇を知っているのは、王子のほかに二人だけ。
庭師と、そして一人の女の子でした。
誰の目にも留まらない花壇へ、庭師の孫娘である少女はよく訪れていました。人気のないそこで、少女はよく剣を振っていました。
そして彼女の来訪を、王子はとても喜ばしく思っていました。
「ねえ、今日咲かせた花を一緒に見ないかい」
「王子様、それは他のお嬢様に言ってください。私はただの庶民です」
みすぼらしい服を着た少女は、いつも王子様にそっけない言葉しか返せませんでした。
高価な服を着た六番目の王子は、気にせず首を傾げます。
「けれど、僕は君に花を見てもらうのが好きだよ」
「私はいつか国を守る兵士になるのです。そのような事は、綺麗な花の似合う姫様方に言ってください」
少女は軍に入ると決めていました。剣の練習に明け暮れた彼女の手の皮はすっかり丈夫になり、優雅な貴族の姫君とは比べ物にならない程荒れておりました。
「君だってとても綺麗なのに」
王子は土ですっかり汚れた手を払いながら、今日も渋々彼女の言葉を受け入れます。
そうして、彼女は去っていくのです。
王子が一人、手をかけて育てている花々を、そっと目に入れてから。
いつも、言えずにいたけれど。
少女は、王子の花壇が好きでした。
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