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そうして年月が過ぎて。
隣国との争いが激しくなりました。
少女は兵士になり、お役目を果たすために戦地に赴くことになりました。
その前日、少女は王子の花壇を訪れておりました。
春ののどかな空気を、鎧の姿は気にも留めていないようでした。
着こんだ鉄鎧は歩くたびに硬い音を立て、平和な花壇からひどく浮いておりました。
そんなことは気にせず、いつものように王子は少女に声をかけます。
「明日君は行ってしまうのだね」
「はい、ここに来るのはきっと最後です」
その言葉を聞いて、王子は暫く俯きました。
やがて顔を上げると、少女を見つめます。
「行く前に、花壇の手入れを一緒にしてみないかい」
何度も聞いた、誘い文句でした。
何度も断った、やりとりでした。
「王子様。今の私は花を散らし、国を守る兵士です。貴方の隣に立つには不相応です」
けれど、と彼女は迷うように告げました。
続きは、伝えたことのない気持ちでした。
王子に断ってから、花壇のとある花を一輪手折ります。
「もしも、この花が枯れるまでに戦争が終わったなら、貴方の隣に帰ってきてもいいでしょうか」
さし出された花を、花壇の主は見つめました。
決して派手ではないけれど、冬まで元気に咲き誇る、小さく可憐な黄色い花でした。
王子はそっと微笑むと、優しい手つきで花を受け取ります。
淡い香りが、辺りを包んでおりました。
「どうか僕の所へ帰ってきておくれ。無事を祈っているよ」
「はい、行って参ります。国を守るために」
そうして彼女は去りました。
国を守るために。
国にいる王子を守るために。
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