王子様と花嫁

5/5
前へ
/5ページ
次へ
 国が落ち着くまで、何年も月日が流れました。  少女は大人になり、久々に祖国へ帰れることとなりました。  剣は手放し、鎧も奪われ、彼女はもはや兵士ではありませんでした。  記憶と違う町並みは、戦を忘れたように賑わっておりました。  街は様々な花で彩られており、傷ついた人々の心を癒しています。  心地よい芳香に紛れ、人々の噂が漂います。  町はずれの一軒。そこはこの国の中で一番花が咲き誇っていて、一人の男が全て世話をしているのだと。  噂を聞いた女性は、駆け出しました。  懐かしい、淡い香りが彼女を誘います。  踏みならされた小道を進むと、小さな家がありました。  赤、藍、橙、碧、紫。色とりどりの花弁が風に揺れています。  一番多いのは、黄色です。  家の周りを、黄色い花が飾っていました。  季節はすっかり、春でした。 「やあ、久しぶり」  かつての王子が、庭で花の手入れをしておりました。  衣装はすっかり古い安物、住んでいる所もお城から小さな家に変わっていました。 ただ、優しい笑顔は昔のままでした。 「あれから君のくれた花は枯れてしまったけど、それは実を結び、種を作り、芽を出して、こうして毎年咲き続けている」  彼は花をいくつか、摘み取ります。  その中にはあの、黄色い花もありました。 「僕はもう王子ではない。綺麗な服も豪華な城住まいも失った。それでも君が望んでくれるなら、一緒に同じ花壇を見つめて、世話をして、そうして過ごしていきたいよ」  王子だった青年は花束を作り、差し出しました。 「どうか、僕の花嫁になってください」  彼女は何度も瞬きをしました。  震える手で、花を受け取りました。  そして、かつての少女は花のような笑顔を浮かべました。  それ以降、この国では。  黄色い花をブーケにする花嫁が多いのです。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加