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見事な最期
僕は育ての親に『感謝』を込めて鳴いた。
風に乗れ。そして全ての生物の癒しとなれ。一生懸命生きて欲しい。生き抜いてまた桜の木の下で再会しよう。
聞こえるかい…僕の『虫の知らせ』が。
僕は命尽きるまで鳴き続けた。
ー2日後
「ジーッ・ジージジジ…」
僕は使命を果たした。
ちょうど、君からいただいた命の水も切れてしまったからね。
僕は君の足元でまっすぐ上を向き、最後の力を振り絞って君を仰いだ。
君は如来にも似た慈悲深い表情で、僕を見下ろしている。
君に看取られながら死ぬのが、こんなに幸せだとは思わなかった。家族の一員だと言ってくれたんだ。これで僕は報われた。
しばらく苦しんだ後、静かに息を引き取った。
黒ずくめの盗賊たちは、集団でセミを巣へと運んでいった。
桜の花芽は、セミ達の死を悲しむかのように、秋までの静かな眠りに入っていった。
終
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