年上の彼

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年上の彼

松浦 美衣菜(まつうらみいな)30歳。どこにでもいる普通のOL。 平凡な毎日を過ごしている。 周りは結婚して子供がいたりするけど、私は1人。 それなりに恋愛はしてきたつもりだけど、結婚まではいかなかった。 気が付けば3年くらい恋愛してない気がする。 毎週金曜日は自分へのご褒美におしゃれなバーに飲みにいく。 なんとなく入ったお店だったのに気に入って毎週通っている。 「いらっしゃいませ。みいなさん。今週もお仕事お疲れさまです。」 ここのバーテンの河野 涼真くん(こうのりょうま)。 「お疲れ!今週も疲れたよーーー。」 「いつものですか?」 「うん。お願い。あとなんか適当に食べたいなあ」 「了解!」 このお店は雰囲気がとてもよくて落ち着く。 金曜日は遅くまでここで過ごしている。もちろん1人で・・・。 「おまたせしました。」 「涼真くん、ありがとう!ホントここいいお店だよ。ずっといれる」 「ありがとうございます。彼氏と一緒にきてもいいですよ」 「いてもここには連れてこないし。いないし。」 「じゃあきれいなお友達を連れてきてくださいよ。」 「そのうちね・・・」 人がちらほら入ってきたから涼真くんは私の席から離れていった。 私はいつものようにまったりと時間を過ごしていた。 「松浦?」 薄暗い中で名前を呼ばれた。 呼ばれた方に振り向くと、上司の村井 要(むらいかなめ)がいた。 「村井部長・・・」 「こんなところでお前にあうとは・・・ここは俺の隠れ家なんだけど」 「私も常連です。金曜日だけですけど」 「そうか・・・隣いいか?」 え?せっかくの1人のご褒美タイムなのに・・・でも村井部長と飲める なんて貴重かも。 村井部長は独身で40歳位だった気がする。イケメンで会社でも一目置かれてる。でも仕事には厳しいからなかなか声がかけにくいらしい。 私もイケメンだとは思うけど、上司以上には見たことはない。 飲み会でもいつも周囲には女子がたくさんいるからゆっくり話をしたことが ない。 「いいですけど・・・待ち合わせとかですか?」 「いや、1人だけど」 「お1人ですか?金曜日なのに」 「それはお互い様じゃないのか?」 「私は毎週金曜日は1週間頑張った、ご褒美にここで飲んでるんです」 「俺は金曜日は接待が多いから来ることはあまりないな。 今日は珍しくなにもなかったから寄ってみたら、見たことがある奴が いると思って・・・」 金曜日に1人って・・・彼女とかいないのかな?? でも他の席の女子たちがそわそわしてる・・・。 言っているそばから部長の隣にきれいな女性が近づいてきた。 「あの、お1人でしたら一緒に飲みませんか?」 「いえ、連れと一緒なので・・・」 と私を見た。 連れ?1人っていってたよね・・・・。 その女性は私を睨らんで元の席に戻っていった。 「部長!なんで私がにらまれなきゃいけないんですか?」 「睨んでたか?ああいう女面倒なんだ」 「だったら1人で飲みに来なきゃいいんじゃないですか?」 本当に・・・・ご褒美タイムが台無し!家に帰って飲み直そう。 「涼真くん、支払いするから」 「今日、早くないですか?」 余計なことを言わないでよ涼真くん。 「なんか疲れたから帰ろうかなと」 「俺のせいか?」 そう!といいたいのをぐっとこらえた。 「違います。」 「あれ?村井さんとみいなさんはお知り合いなんですか?」 「私の会社の上司なの」 「そうなんですか。」 「帰るなよ。もう少し付き合え。松浦」 付き合えって、一緒に飲みにきてないし・・・なんなのよ。 「お断りします」 「これは、上司命令な」 「は?」 プライベートなのに上司命令ってなに!! 「河野くん、こいつのも一緒に払うから。また後で声かけるよ」 「分かりました。」 涼真くんは私の席から離れてしまった。 ムッとした私に部長が声をかける。 「そんなに俺と飲むのが嫌か?」 「そんなことはないですが、部長は会社では有名ですのでもし一緒にいる所を 誰かにみられたら面倒なので・・・」 「さっきから部長・部長って。ここではやめてくれ、ここは会社じゃないだろ?」 「私の中では、部長は部長です」 「部長は禁止!部長って言ったら罰金な!」 禁止?罰金って・・・。 「分かりました。」 「で、なんで俺といるのが面倒なんだ?」 この人は自分がモテてるという認識はないのだろうか? 「村井さんは、会社でモテモテなんですよ。知らないんですか? だから一緒にいたら変な噂がながれて私の身が危ないんですよ。 いつも飲み会でも女子に囲まれてるじゃないですか?」 「あれうざいんだよな・・・」 うざい?涼しい笑顔で話してるのに・・・裏表激しかったりする? 「会社とは違うんですね」 「今は会社じゃないんだから作る必要ないだろ!」 「私は会社の人間ですけど・・・」 「松浦はいいんだよ」 「なんでですか?」 「俺、松浦とゆっくり話したかったんだよ。」 「・・・・?」 「俺、お前と付き合いたいと思ってたんだ。」 「へ?」 ???????急に変な言葉が頭に飛び込んできた。 付き合いたい?私と?なんで? 「私とですか?部長の事そんな風に思った事ないです。」 「また部長って・・・罰金だっていっただろ?  俺はお前をそんな風に思ってた。」 「急にそんなこと言われても・・・部長の事、何にも知らないです。 歳だって10も違うし・・・。」 「歳の事を言われたら辛いところだな・・・。じゃあ俺の事を知って もらいながら考えてくれ。ひとまず毎週金曜日はここで飲もう」 えーーーー。私のご褒美タイムはーーーー。 「金曜日のここは嫌です。大事な私の時間なので」 はっきり伝えておかないとね。 「分かった。」 分かってくれた。よかった。 「じゃあ。水曜日にしよう。ノー残デーだし。場所は俺の家」 部長の家?? 何か変な方向に話が進んでない? 「なんで部長のお家なんですか?」 「見られたら困るんだろ?後で家の住所とエントランスの解除番号教えるから 携帯教えろ」 どんどん部長のペースになって携帯番号を交換することになった。 それからなんだかんだと時間は過ぎていき、部長にごちそうになって 店を一緒にでる。 「じゃあ。また来週な」 と村井部長はさわやかに帰っていった。 自分の家に帰って、湯船につかりなが村井部長との話を振り返る。 『付き合いたいっていってた・・・私と・・・なんで??』 土日もずっと頭からはなれなかった。 月曜日。気が重いままオフィスに向かっていると、後ろから声が聞こえてくる。 「松浦。おはよう」 「部長・・・おはようございます。」 「松浦、あのさ・・   『村井部長 おはようございます』 きたーーー部長ファンの団体が私を押しのける。 「おはよう」 また涼しい顔で・・・。さっさとこの場から立ち去らないとね。 「松浦・・・」 私を呼ぶ声がしたけど・・・聞こえないふり。 村井部長とは3年ほど一緒に仕事しているけど、 仕事の話はするけどプライベートな話をしたことはほとんどない。 部長の視線を感じながら、気づかないふりをしていた。 そして水曜日を迎えた。 朝から憂鬱。でも部長は今日は1日外出でそのまま直帰するらしい。 もしかしたら忙しくて今日はなしになるかもと思っていたら・・・ 携帯が鳴る。 そこには住所と6桁の数字と部屋番号が記されていて、 最後に『絶対にこい』とあった。 仕事が終わって、仕方なく教えらえた住所に向かう。 夕食はどうするのだろうとかいろいろ考えて、途中のスーパーで お酒と軽く食べられるものを購入した。 ついたところは高級タワーマンション。 教えられた数字を入力すると自動ドアが開く。部屋は最上階みたい・・・ 結構お高いんじゃないのかな・・・ 部屋の扉の前についてインターホンを鳴らしても応答がない。 まだ帰ってないんだよね?勝手に入っていいとあったから気が引けるけど、 扉の前にずっと立ってるのもご近所の目もあるだろうから 電子キーにさっきの番号を入力してロックを解除する。 扉を恐る恐る開けて小さな声で「おじゃましまーす」と言って部屋に入る。 部屋に入ると自動で玄関のライトが点灯した。 どんだけすごい家なのよ。 廊下も長いし、ついたリビングは私の部屋の2倍くらいの広さ。 キッチンもおしゃれなアイランドキッチン。 黒を基調にした感じで、冷蔵庫もでかい。 ひとまず買ってきたものを冷蔵庫に入れさせてもらって・・・・。 と冷蔵庫を開けるとお酒とミネラルウォーターばっかり。 ごはん何を食べてるんだろう・・・。 窓からの夜景もキレイ。広いリビングのソファーに1人ポツンと座る。 1時間位経った頃、ガチャリと玄関の開く音が聞こえたので玄関に向かった。 「あ・・・おかえりさなさい。」 「・・・・」 え?私なんか変な事言ったかな? と思ったら急に抱きしめられた。 ちょちょっと・・・・。 「あの・・・部長?」 「ああ、悪い。」 部長はゆっくり私を抱きしめている腕を緩めてくれた。 「おかえりなさいってもう一回言って」 「・・・おかえりなさい?」 「なんで疑問形なんだよ。・・・ただいま」 少年のような笑顔に一瞬キュンとしてしまった。 「待たせて悪かったな。毎日、ミイナにおかえりって言って欲しいな」 今、ミイナって呼んだ?? 「あの・・・名前・・・」 「ダメなのか?」 「ダメ・・じゃないですけど・・・」 「というわけで、俺の事も名前で呼べよ」 「そんな・・・」 「そういえば、めし食ったか?」 「いえ。来る途中に適当に買ってきて、冷蔵庫に入れさせて もらいました」 「気が利くな。仕事の時もそうだよな」 なんか調子狂う。会社の部長と全然違う。 「飯食おう!」 と私の手を握って引っ張っていく。 「あの・・手・・・」 「ダメか?」 おねだりする子犬のような顔でみてくるーーー。 なんにも言えないじゃん。 玄関から連れられてそのままソファーにすわらされる。 部長は、冷蔵庫を開けて私の買ってきたものを温めて出してくれた。 「酒も買ってきてくれたんだ。ん?ノンアル?」 「それ私のです。」 「ミイナは飲まないのか?」 「帰れなくなるので」 「帰らなくていいだろ?泊まって明日一緒に出社したらいいだろ?」 この人、何をいってるんだろう・・・。私達の関係ってなに!! 「同じ服を着て出社するなんて嫌ですよ。泊まりません!」 「・・・・まあいっか。ひとまず着替えてくるから、先に食べてていいぞ」 「はい」 そういうと部長はどこかの部屋に消えていった。 ここって何部屋あるのかな・・・・。 スウェットパンツにTシャツを着た部長が私の隣に座った。 「食べてていいっていっただろ?」 もう帰ってきた。てか距離が近い・・・。 カクテルの缶を開けて口をつけようとしたら、 「缶のまま飲むなよ。グラス持ってきてるだろ」 「私は缶のままでいいですよ。部長は何を飲みますか?」 とグラスに手をかけると、その手をつかまれた。 「ミイナ。俺の名前は部長ではない。」 「・・・要さんでしたね」 お酒の瓶がどんどん開いていくけど部長はぜんぜん酔っている感じではない。 「氷持ってきますね」 とキッチンに向かって冷蔵庫から氷を取り出していると、背中が急に 温かく感じた。 部長にバックハグされてるーーーーー。 「あの・・・」 「ミイナの事が好きだ。誰にも渡したくない。俺と付き合って欲しい」 耳元に低音の心地いい声が・・・・。 「えっと・・・」 「彼氏いるのか?」 「いませんけど・・・・」 「けど??」 「私に要さんは釣り合いません」 「なんだそれ?」 「それに、俺の事を知ってくれって言ったの先週の金曜日ですし、 私は今日から要さんのことを知っていくんですけど・・・」 私を包み込む腕をほどこうとしてもほどけない。 「知ってもらう間に誰かのものになったら嫌だ。  それに釣り合わないって何だ?」 「要さんは仕事もできるし、かっこいいし、モテるし・・・私にはなんにも ないし・・・」 「ミイナは自分の評価が低いすぎだな。ミイナは小さくてかわいくて 仕事だって一生懸命やってる。そんなミイナが俺は好きなんだよ。」 「・・・・」 「ミイナは俺の事が嫌いか?」 「嫌いではないです。好きはまだわかりません。だから要さんの事を 知りたいんです。」 「付き合いながら知り合っていけばいいだろ?」 「・・・・」 このままの状況だと心臓の音が聞こえちゃう。 「あの・・・離してもらってもいいですか?」 「いやだといったら?」 「え?あの・・・」 どうしたらいいの・・・・。 「すまん。ミイナが俺の腕の中にいるのが嬉しすぎて・・・。」 やっと腕を外してくれた。心臓のドキドキ聞こえなかったかな? 腕から離れるとちょっと恥ずかしそうにしている部長がいた。 部長ってこんなに甘い人なんだ・・・。 部長と付き合ったらどうなっちゃうんだろう。
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