十五話 露見◆

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 その問い――確認に、あさきは頷いたか、頷かなかったのかは、わからない。  ただ、一人のような心地で、その時を過ごした。父はそれきり何も言わず、あさきを見なかった。あさきはそれに、心許なさとわずかな安堵を覚え、席を立った。時間ももう遅いから、といいわけをした。  あさきはそれから風呂に入った。事務的な日常の行為をこなして、部屋に入った。父の背はずっと、キッチンのテーブルにあった。かけよって抱きしめたい衝動にかられたが、どうしてもそれができなかった。  ベッドに入り、布団に頭までくるまった。クーラーをつけていないから、すぐに汗だくになった。なのに、体は氷のように冷たかった。あさきは自分の手がふるえているのに、そこでようやく気づいた。  気づいた瞬間に、せきを切ったように、心が体を圧迫した。あさきは頭を抱え、口を開いた。叫んだはずの声は、のどがふさがって、音にならなかった。  うそだ  あさきは髪を引っ張った。手が濡れて、ドライヤーをかけ忘れていたことに気づいた。  うそだ、うそだ、うそだ  あさきは心の中で何度も何度も叫んだ。心の中の全てを、その言葉で埋め尽くそうとした。 ――あさき、待っていてね――  しかし、頭がもう一つあるみたいに、必ずあの日の母の声が、あさきの頭を浸食した。あさきは細い金切り声を上げた。黒板を釘でひっかいたような、不快な声だった。  母さんどうして?  否定し尽くして、母に埋め尽くされて、疲弊したあさきの頭に浮かんだのは、その一言だった。  どうして、どうして?  わからなかった。目を閉じれば、母の笑顔がよみがえる。「お母さん」と駆けていけば、いつも、笑って受け止めてくれた。手の、腕の温かさをはっきりと思い浮かべられる。優しく、無邪気で、あたたかな母の笑顔。ずっと生まれたときからそこにあって、続いていたもの。  ――大好き。みんな、私の宝物よ――  母さん、どうして、どうして―― 『お母さんはだまされたんだ。あさき、わかってくれるよな』  父の言葉がよみがえる。  わからない。お父さん、わからないよ。  どうしてもわからなかった。  だから、うそだ、とあさきはまた繰り返す。  そうして、また、母の笑顔を――  夜が明け、脳が限界を迎え気絶するまで、あさきはずっとずっと繰り返していた。

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