.4話 夏休みはバイト、バイト、またバイト

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.4話 夏休みはバイト、バイト、またバイト

 梅雨も開け、7月が終わりを向かえる頃には期末試験も終わり、私達は試験休みからそのまま夏休みへと突入する。あれから結局、織田とは一切話しをする事はなかった。エリカといえば、合宿免許で中型自動二輪の教習を受けていると聞いた。かくいう私はといえば、アルバイトに明け暮れる毎日なのよ。  エリカと違い、親に『バイク買ってぇ~、免許のお金出してぇ~』などと言ったところで援助してくれるほど私の親は甘くない。 「バイクの免許取ろうと思うんだけども……」 「好きにしないさい、自分のお金でね」  反対することはないが、援助などは当然ない。父親も母親も小さい頃から私を自由にさせてくれるのは嬉しいが、ほんの少し、ちょっとだけでいいから気にかけて欲しいと寂しく思う時もあったりする。そう思う反面、両親への感謝は忘れない。って優等生っぽく締めくくっておこう。  人見知りMAXの私がアルバイトなど? 誰もがそう思うことは明らかだけども、意外と性に合うアルバイトが見つかった。 「いらしゃいませぇ~」  なんてのはマジ無理だから…… そもそもあの鼻から抜けるようなフニャッとした声を出すことができないのよ。みんな練習してるのかな? 疑問にも思う。 「い、い、いらしゃいましぇ~」  マジ恥ずかしいって。ちょっと練習したみたけど、この手の仕事は世にいる可愛い系の女子にお任せするとしよう。そしてだ、私が見つけたアルバイトなんだけども、運送屋さんの配送の仕分け。これが案外、私に向いている。なにせ人と話をすることは一日働いても二言三言あれば良いほうだ。あとはダンボール箱がお友達。 「〇〇町3丁目、□□町1丁目、△□○区?%&町」  我が住む街に地名がこんなにも沢山あることに少しばかり驚かされた。  まぁ言うて力仕事だからバイトが終わればヘトヘトでクタクタなんだけども。バイトを初めた最初の頃は家に帰ればご飯も食べずにお風呂に入ってそのままベットに横になり、寝落ちする毎日でもあった。ただ結局のところ背の小さい私を見かね、大きくて重そうな荷物は力持ちの社員さんが手伝ってくれる有様だったりもする。これはこれで背が小さいという生まれ持った特殊能力だと理解した。  これからは、この弱々しい華奢な女の子を活かし、世の男を侍らかしてやる、そう思うことは絶対にない、ムリムリ。  夏休みも終わる頃には免許の受験費用に原付き一台を買うのに少しだけ足りないくらいの貯金ができた。後は休み中に免許とる、織田に借りた過去問集を頭に詰め込んだ。 「──!? 落ちた……」  一度目の試験は見事に惨敗…… といいますか、運転免許試験ってかなり引っ掛け問題が多いのではないか? これがいわゆる、『落すための試験』って事なんだ、と深く反省し、過去問集を更に3回繰返して再試験へ望んだ。  もちろん私こと早川ナツは見事に原動機付自転車免許の取得に成功したのであった。後はバイクを買うのみとワクワクする毎日を過ごしていた。この時は最高に幸せだったよね。夢が広がるといいますか、中学生の時、初めてスマホを手に入れ一日中ネットサーフィンをし動画を見たり、SNSに登録したりと時間の過ぎるのを忘れて夢中になったあの時と同じように、パンフレットやバイク雑誌を眺め時間は過ぎて行った。 『タラリ~ン♪』メッセージアプリの着信音が鳴った。  エリカからだった。 「捕ったどぉ~!!」  に添えられた画像は本人のめっちゃ可愛いでしょのキメ顔に、おまけ程度にほんの小さく写る運転免許証だった。どんだけナルシストなわけ? 普通に免許の写真だけ送ればいいじゃんね、そう思い、負けじと私は免許証だけの画像を返信してやった。 『タラリ~ン♪』 「ちゃんと見たぁ!? 『二輪車は中型二輪に限る』って所、あんたの負けぇ!!」  送られてきた画像の小さな免許証の部分を拡大して良く見てみると、な、なんと、んッ!? 私のと違う…… そんなの何処にも書いていない…… 知らんかった、自動二輪の免許証って注意書きがたされて書き込まれる事を。  といいますか、そもそも勝負とかしてないし、どうしても私と比較して上位に君臨していたいエリカの女王様ぶりも、17年近く付き合えば慣れたものだ。 「良かったね、自動二輪の免許取れたんだ……」  いつものように当たり障りなく、これ以上に話を広げさせないような返事を送っておく。 『タラリ~ン♪』 「ありがとう♪ 今度ツーリング一緒に行こうね、じゃあね、バイバイ」  勝手だ、マジ勝手過ぎる。自分の言いたいことだけ言って話を締めくくりやがった、信じられん。いや、これがいつものエリカなのだと、あらためて自己完結しておこう。  明日は始業式、織田に借りた過去問集をカバンに詰め込み、明日に備えて早めに布団に潜り込む。寝れない…… 幼稚園の遠足の前の日、嬉しすぎて寝れなかった時のように。そして当日は熱を出し、欠席する良くあるパターンの一人だったりする。このドキドキする気持、一体なんなんだろ!? 「おやすみなさい」
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