.6話 抑えきれない感情のゆくえ

1/2
前へ
/11ページ
次へ

.6話 抑えきれない感情のゆくえ

「こ、声…… 大っきいから、エリカってば恥ずかしいよ」  すぐそこの路地を右に曲がればそこには我らが通う西湘平高等学園がある。バスの前を走るスクーターは学園とは反対の方向へと、その路地を左に曲がった。 「あれ!? 前のスクーター左に曲がった…… 歩夢じゃなかったのかなぁ」 「…… フュージョン」 「なになに、フュージョンって何!?」  前を走るスクーター、それは後ろ姿のシルエットに特徴のあるビックスクーター、 『HONDA フュージョン』  だった。  1986年の発売から1997年までの11年で生産を終了している。生産当初から生産終了までの間、あまり人気もなく、意外なまでにあっけなく販売終了となり姿を消した。その後、皮肉にも後継車種が火種となり、ビックスクーターブームが沸き起こり再販されたほどの今では大人気ビックスクーターだった。 「ナツって、スクーターの後ろ姿で名前がわかるの、もしやヲタ!?」 「ち、違う違う、フュージョンって後ろ姿が特徴的だからだよ」  まぁ、織田に『俺、バイク乗ってるんだ! ビックスクーターってわかる?』って話をされて以来、ネットで色々なビックスクーターの画像を見るうちに、フュージョンだけがなんだか格好いいとは違う、可愛いとも違う、どこか懐かしいノスタルジックな感じが漂う印象的なビックスクーターであり、その事が脳裏に焼き付いていたからだと思う。こんなイメージが頭の中を通り過ぎていく。  学園の近くにある海沿いの国道を太陽の光を燦々と浴び、風を切りながら日焼けしたイケメン男子が爽やかにバイクを走らせる、そんなイメージなんだけども。どんな妄想なの私って…… いかんいかん『お一人様上等』ですけど、それが何か!? 「確かにあれってうちらの制服と同じだったよね? 歩夢だったと思うんだけどなぁ……」 「でもうちの学校ってバイク通学禁止だよ?」  そう、冷静に考えて、もしも仮にあれが織田だったとすれば、完全に校則違反なのだよ。ならば敢えて『俺、バイクで来ましたー』なんて所にバイクを停めるはずもない。そ、そっか、近くに隠してるんだ。「私は名探偵、ホームズの孫娘のナツさま」謎は解けました。 「──あッ! そっか、うちの学校、バイク通学禁止じゃん、どっかに隠してるんじゃん」 「う、うぅん…… エリカってば、声、大っきいよ」  もはや謎解きなどは不要、誰にでもわかる事だった……
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加