.7話 夢と現実、そして妄想

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『バンッ!』保健室のドアが勢いよく開くと同時に、耳に刺さる大きな声が穏やかだった部屋の空気を劈き轟いた。 「やだぁー!! 大丈夫なのナツぅ…… 」  エリカだった。 「う、うぅ……ん、自分では良く覚えてないから、ちょっと膝が痛いだけ」  どちらかと言えば、エリカの声の方が耳に響くし痛いんだけども。でも、こうやって心配して飛んで来てくれる友達が居る私は幸せなんだと思う。と、青春の1ページにこれを刻み、高校生活の思い出のアルバムに焼き付ける。には少しばかり黒歴史に近い思い出を刻んだようだった。 「てか、なんで歩夢だったわけ!!」  何のことですか? エリカの言葉に首を傾げていると眞知子先生がエリカの言葉に補足を付けくわえてきた。 「そうそう早川さんが倒れた時ね、ここままで運んで来たの織田くんなのよ」  えぇー!! 私、臭くなかったよね、ヨダレとか垂らしてないよね? あッ! そうだハミガキ粉、ブラウスに垂らしてたんだ…… めっちゃ恥ずかしいんだけども。 「そ、そうだよ、なんで歩夢なわけ、担任のハゲマルで良かったじゃん!」  ちなみにハゲマルとは私のクラス担任のあだ名である。あだ名の由来はご想像のとおり。 「しかもぉ! お姫様抱っこって何!! 意味わからないよ、あんた歩夢とどういう関係よ! ナツはちょっと重めなんだからね!」  いぃー!! お姫様抱っこって…… なにそれ、知らんし。──あの夢!? アイツ、私の胸触ったんか!? きっと、たぶん、そうに違いない。だからだ、あんなエッチな夢みたんじゃん、ただの思い込みである。そして『ちょっと重めとは!?』所々に入れるその嫌味、ヤメなさい。 「わ、私だって知らないよ! な、何で織田だったのかなんて……」  お姫様抱っこに動揺していた事もあり、そう言い返した言葉の節々は何処かぎこちないものとなって切れ味悪く私の口から零れ出た。 「まぁまぁ、そんな事どうでもいいんじゃない、早川さん、元気になった事だし」  一触即発の事態を察した大人の発言、眞知子先生の言葉で部屋の空気の色がスッと入れ替わり、その場が和んでいってた。 「そうだね、歩夢に限って浮気とかないから! じゃぁ私、先に帰るから」  そう言うとプイッと私に背を向け綺麗に巻かれた栗色の髪を翻すと、大股で肩で風を切りながらブイブイいわせて部屋を出ていった。  …… エリカ…… 何しに来た!? それだけか、そして自分の言いたいこと言って帰ったのか? 何より織田とエリカは付き合ってるのか? 初耳だぞッ、そして何時も一緒に帰ってないし、私の心配じゃなくて織田の心配かぁーい、意味わからん。 「ねぇ、あの娘って何時も ああなの!? 良く疲れないで一緒に居れるわね」 「もぅ慣れました、17年一緒ですから……」  眞知子先生の言葉に半ば諦めきった言葉で返事を返した。 「あッ! そうそう、織田くんがね、早川さんが起きたらコレ渡してくれって」  そう言って眞知子先生から手渡され小さな紙切れに見えたそれは名刺だった。 『coffee & bike shop ~ Mahal kita. ~』 「そこに来ればバイクの事、親切に教えてくれるから、とか、言ってたわよ」  コーヒー・アンド・バイク・ショップ…… あとは読み方がわからん。てかコーヒーとバイクの関係性がいまいちピンとこないんだけども……  今度のお休みに行って見ようと思う。マジ、膝、痛いんだけども、あッ! 青アザできてるぅー。
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