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「あー、もういやだ、全然思いつかないぃ」
ライブは来月だっていうのに全く何も降りてこない。
いつも仕事の遅いベースのトヨマサが、早い時期にやばいトラックを送ってきてくれたのに。
「これを完璧にしたら今までで一番すごい曲になるよ」
ドラムのリクには早くも超名曲がみえてきたらしい。
パソコンに向かってもギターを持っても、ありきたりなフレーズも学校の校歌も、ほんとに何も降りてこない。調子のいい時は中学の時の校歌に似通ったイントロが聞こえてくるのに。
2年前のアルバムも全8曲中、俺の絡んだのは1曲いや正確には0.5曲。そこ「歩く」じゃなくて、「歩む」のほうがいいんじゃない。それが採用されただけ。クレジットに名前は載ったけど、あのお情けは恥ずかしかった。
うーん、窓でも開けてみようか。風でも浴びればなんか来るだろ。
ら、らら、、えー、ら、ら〜
うーん、違うなぁ、全然違う。
リリック先でいいか、
えー、昨日ぅ〜、えー、あした〜
このぉ〜、道のぉ〜
いかん、いかん、演歌か!
全然だめ、エアコンも効いてこないし、ビールもアイスもカップ麺も、俺を応援してくれるアイテムはこの家には皆無だ。
コンビニにでも行くか。気分転換で名曲は生まれるもんだ。
コンビニまで歩いて5分。ここは遠回りだな。
散歩中の犬と目が合う。
すみません。なんかワンフレーズ下さい。
あぁ、しょうもな。ダジャレモードに入った時に曲作りが進んだ試しはない。
前歩いてるお爺さん、何か落し物でもしてくれませんか?そこから生まれるサビもあるんです。
川かぁ、川見て作る曲って、高校野球のダイジェスト番組っぽくなるんだよね。
今欲しいのはそんなんじゃない。もっとさ、琴線に触れるっていうか、心をどっかに連れてかれるっていうか、とにかく唯一無二でないとだめなんだよ。
雨降りそうだな。降りそうなのはいいんだけど、本気で降っちゃうと失恋ソングしか思いつかないから、もう少し重暗い空でいて欲しいんだよね。
え?ここどこ?遠回りし過ぎてよくわからない道に出てしまった。ここって、、、。
目の前に広がる花畑、花びらが風に揺れている。暗くて落ちそうな空。
この光景を忘れたくなくて写真を撮った。
来た、来た、来たーーー!!
俺は急いでうちに帰ると、携帯の音声メモをオンにしてすぐにギターをかき鳴らした。メロ?リリック?関係ない。
俺の手に、脳に心に、喉に、降り注いだ。
歌い終えて、ベースのトヨマサ、ドラムのリクにその時の俺から出た全てを送った。
2人からすぐに返信があった。
偶然なのか同じような言葉で
「神曲、サイコー!うーん、でもどっかで聞いたことある、、かなぁ」
なんだよ!ケチつけるなよ!そんなはずはない、これは紛れもなく俺だけに降りてきた俺オリジナルの曲。
あの神がかった花畑を見つけた俺にだけ降りてきた曲。
あの場所で撮った花の写真を見た。なぜか気になったので、花の名前を調べるアプリで確認した。
花の名前は
「ハルジオン」だった。
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