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「もも、刺すとかそういう事を言っちゃダメだって。
俺ら二人は何もないし、落ち着いて話し合えば分かる」
「何もないとかあり得ないし、普通に考えればこの状況で落ち着ける訳ねーだろ!」
声を張り上げて葵ももはユキトの言葉を遮ると、「もも、喉渇いてきた」と付け加え、キッチンまで戻って蛇口をひねった。
その時、ユキトなる男が駆け寄ってきたのか、取っ組み合う葵ももとユキトの二人の姿がスマートフォンに映った。
「あつっ!」
が、その二人の取っ組み合いはすぐに画面の外に消えた。
「刺し殺してぇ、お前ら刺し殺してぇよ!
つーかさ、ココでお前ら二人刺し殺したらさ!
アタシ、もう飛び降りるから!」
「飛び降りるとか、そういう事言っちゃダメだって!
実際、俺もこうやって血が出てるし、まずは包丁を置いて話し合おうって!」
「いや、お前一回刺されろよ。
楽に殺してやるから。
もう、二度とこういう事出来ないように、刺して『おやすミンミン』させてあげるから」
「ももちゃんやめて! 包丁いい加減に置いて!」
スマートフォンはキッチンに置かれたままなので、映像は斜めに映った天井と三人の泣き声と怒声が聞こえるのみである。
その時、ライブ配信動画を見て事態を察したのか、三人の内の誰かのスマートフォンに、NiziUの着信メロディが鳴り響く。
が、緊迫感溢れるこの空気でNiziUの着信メロディはミスマッチでしかなく、そのメロディをバックミュージックとして「あうっ!」や「痛いー!」といった男女の悲痛な叫び声が、次々と動画の視聴者に聞こえてきた。
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