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「私が雑誌の取材……ですか」  赤川が復唱すると、教頭はふむ、と頷いて口髭を扱いた。彼はその髭をトレードマークに思っているようだが、生徒たちには裏で便所ブラシと呼ばれていた。  授業中の職員室は閑散としていて、しんと静まりかえっていた。ほとんどの教員が授業に出ていたが、赤川は受け持つ授業がない空き時間だった。今のうちに溜まっているテストの採点を済ませるつもりが、教頭に呼び止められて予定が狂った。 「正確には、我が校の取材ですがね。今度、教育関係の雑誌記者が来るのですよ。その対応を、赤川先生にお願いしようかと」  はあ、と赤川は曖昧に頷き、眼鏡を押し上げた。 「構いませんが、なぜ私が? 私は赴任したばかりですし、他に適任の先生がいらっしゃるのでは……」 「それはまあ、他の先生方は多忙ですし、写真を撮られるのなら、若くて見目の良い赤川先生にお願いしたほうがいいと思いましてね」  正直な教頭の言葉に、赤川は苦笑を押し殺した。若い、見目ね――嘘でもいいから、もう少しマシな理由を言えないものだろうか。  赤川は身長176センチとやや高めで、多少冷たい印象があるものの、整った顔立ちをしていた。頻繁に女子生徒に手紙やお菓子を渡されたり、卒業シーズンには告白され、それをやんわり断るのに苦労している。  赤川が教鞭をとるこの学校は、世間では名門と言われる高校だ。資産家や著名人の子女が多く在籍し、質の高い教育で知られていた。そのため、メディア取材を受けることも珍しくはなかった。 「赤川先生、分かっているとは思いますが、取材時にはくれぐれも失礼のないようにしてくださいね。我が校には大事なブランドイメージがありますから」 「ええ、十分承知しています」  赤川は慇懃に頷いたものの、内心は冷ややかだった。  この学校はとにかく体面を重視する。生徒の自主性を重んじるとしながら、時代遅れの厳しい校則を敷き、生徒たちをがちがちに監視していた。  それは教員にも同様で、採用時には徹底的に経歴を探られ、過去にはギャンブルや風俗通いが発覚した教員が解雇された。この学校にある間、誰もが禁欲的な生活を強いられていた。  この学校では――いや、赤川はどこにいても演じなければならない。優秀で、一部の隙もない、完璧な教師を。  赤川は自分の席に戻り、そっとため息をついた。
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