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#5
帰宅して仕事を終えてからも、青葉の言葉がずっと頭から離れなかった。彼の言葉は寄生虫のように頭に巣くい、赤川を苛んでいた。
――夢の中のあんたは、もっと素直で、自由だったよ。
――そういうとこ、すごく好きだったのに……
今思い出してもムカムカする。嫌な男だ。赤川の立場も知らないで、勝手に期待し、落胆して――身勝手すぎる。
(こんなことなら、会わなければ良かった……)
夢は夢で良かったのだ。どうせ赤川の欲望が叶うことはないのだから、それなら夢の中で心おきなく楽しみたかった。夢なら誰に知られることも、淫猥な自分の本性を恥じることもなかったのに――
青葉という男を知ってしまったからには、もうあの夢も見たくない。だが、そんな赤川の意思とは関係なく、夢は訪れた。
(――これは……)
気づけば、赤川は椅子に縛り付けられていた。
後ろに回した腕を縄で括られ、足を椅子の脚に固定されている。閉じることのできない足の間で、むき出しの陰茎がだらりとうなだれていた。
(動けない……)
縄の結び目は固く、手足をねじっただけでは解けそうにない。部屋はひんやりとして、二の腕や内ももの産毛が逆立っている。焦りと不安とが、汗となって背中を濡らした。
(――あぐっ!)
背後から、ぐっと顎を上向かされた。きつく首を絞められ、息が詰まる。
――先生、何してるの?
青葉の目が、冷ややかに見下ろしていた。赤川が全裸なのに対して、彼は昼間と同じシャツとデニムを身につけている。
調教師と鎖で繋がれたサルーーそんな構図が、頭に浮かんだ。
――俺から逃げようとしたの? 悪い子だね。
いきなり乳首を抓られ、全身にびりっと電気が走った。痛い――そう叫んだつもりなのに、声が出ない。夢の中ではいつだって、赤川の声は掠れた吐息にしかならなかった。
――先生には、お仕置きが必要だね。
薄い唇が、うっすらと蛇のように笑った。
青葉はどこからか布を取り出すと、赤川の視界を塞いでしまった。ほの明るい暗闇の中、本能的な恐怖がわき上がる。彼は何をしようというのか。脈拍が徐々に乱れていった。
(……ひっ!)
ふいに、とろりとしたものを胸に垂らされ、びくっ! と腰が跳ねた。それを咎めるように、今度はぱしっと頬をはたかれた。
――このくらいでびびるなよ。まだ始まったばかりだろ?
痛みの後から、じんわりと熱が広がっていく。惨めで、恥ずかしくて、情けない。様々な感情が蔓のように絡まりあって、赤川を雁字搦めにしていた。
冷たいローションが、胸から腹へと塗り広げられていく。先ほど乱暴に抓った乳首をいたわるように、くにくにと指の腹で転がされた。両方の突起を乳輪ごと揉みしだいたかと思えば、一方を優しく撫でられ、もう一方をかりかりと爪で引っかかれる。甘く切なくて、むず痒い。異なる二つの刺激に、すり潰されそうだった。
(あ、あぁ、……や、やぁ……――)
もどかしい。逃げられない、声すら出せない。行き場のない熱はどんどん膨れ上がり、下腹部で渦を巻いている。針か何かで刺されたら、パンクしてしまうかもしれない。
(あ、がぁ……)
長い指が、今度は口腔に差し込まれた。顎を強引に割り開き、内側の粘膜をまさぐり、ぐっと舌を引き出される。敏感な舌先を、ぐにぐにと弄ばれた。
(はっ、がぁっ、……ぐぅっ、……うぅ、あうぅぅ、)
指が喉の奥まで入り込んで、何度もえずいた。苦しみのあまりこぼした涙が、目隠しの布に吸い取られていく。
苦しい。助けて――
もう解放してほしい――だが、そんな赤川の祈りをせせら笑うように、青葉は囁いた。
――先生、気持ちいいの?
彼の手が滑り降り、下腹部に触れた。
信じられないことに、そこははっきりと欲情の形を示していた。小さな穴から蜜を垂らし、ぴくぴくとひくついている。
神経の回路が、おかしくなっているのだろうか。彼に喉奥を弄られるたび、むずむずと下半身が疼いて、そこに血が集まっていく。先端からはしたない蜜が伝い落ち、尻の下にまで垂れていた。
――喉に指突っ込まれて、乳首つねられて、おっ立ててるの? いやらしい。
劣情を煽るように、ぬるぬると亀頭を撫で回された。痛みと快楽の紙一重な刺激に、きゅっと尻のすぼみが勝手に締まってしまう。ゆらめく腰に合わせて、椅子がきしきしと音を立てた。
――ほら、先生。あんたはこういう人間だよ。
くち、くち、と先端の穴が抉られる。いやいや、と振る赤川の頭を引き寄せ、青葉は囁いた。
――否定したって駄目だよ。今見せてあげる。
目隠しの布が、はらりと滑り落ちた。降り注ぐ光に、一瞬視界がくらむ。
(あ、――――)
一体、いつの間に用意したのか――目の前にあらわれた、大きな鏡。
そこにいたのは、あられもない姿をさらす男だった。
白い肌は桜色に染まり、汗とローションにまみれ、まるで軟体生物のように妖しく艶めいている。曇った瞳は潤み、赤い唇をだらしなく開けて、こぼれた唾液が喉元まで垂れていた。乱暴にいじられた乳首は乳輪ごと腫れあがり、果実のように赤く色づいていた。
そして、力なく開いた足の間で屹立する、劣情――先端から粘液を溢れさせててらてらと濡れ光り、根元の袋を伝って椅子の座面まで濡らしていた。まるでおしっこを漏らしたようなはしたない姿に、羞恥の火が燃え上がった。
顔をそらそうとすると、青葉にぐっと頭を固定された。肌が密着し、あのメントールの匂いが鼻孔をくすぐる。
――よく見て、先生。こんなに大きくして、かわいいね。
筋張った彼の手が、再びそこに触れる。指先でたぷたぷと双珠を揉みこむと、ぐちぐちと幹を扱きはじめた。根元でわだかまっていた射精感が、一気に高まっていく。
(あ、あ、あ、――――)
赤川はしどけなく口を開き、喉を逸らせた。汗を噴き出させ、なすすべなく裸身をうねらせるその姿は、さながら打ち上げられた魚のようだった。
いや、いや、――
でも、気持ちいい。
解放して。自由にして。
今の赤川は教師でもなんでもない。
快楽を追う、一匹の獣。
淫らな獣が、のたうっている。
(ひゃっ、あぁ、あああぁああーーーー!)
射精の瞬間、赤川は自身の悲鳴で目を覚ました。
喘ぎ過ぎたのか、喉がヒリヒリする。全身ぐっしょりと汗に濡れて、ガタガタと震えていた。
「あぁ、ーーはぁ、……」
股間の、ぐっしょりと濡れた感触。射精どころか、失禁までしてしまったらしい。パジャマの尻までしとどに濡れて、シーツにまで染み込んでいる。羞恥と自己嫌悪が、赤川を包み込んだ。
ふと、胸に小さな痛みを覚えて、前のボタンを外した。
夢の中できつく弄ばれた乳首が、赤く腫れ上がっていた。
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