#6

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#6

 その夜、赤川は授業を終えると、タクシーに乗ってある場所へ向かった。指定されたそのホテルは、飲み屋やいかがわしい店が立ち並ぶ、風俗街の一角にあった。  タクシーが止まった途端、ぶるっと震えが這い上がった。こんなところで誰かに見られたら、教師生命が終わる。本能的な恐怖が、ぴったりと張り付いてくる。  だが、赤川は勇気を振り絞り、彼が待つ部屋へと向かった。 「へえ、本当に来たんだ」  青葉は出迎えるなり、皮肉っぽく口端を吊り上げた。  昨日の夢から目覚めた後、赤川はいても立ってもいられず、青葉の名刺に記されたアドレスにメールを送った。彼は理由は聞かず、ただこの部屋へ来るようにだけ伝えた。赤川が何を望んでいるのか、もう分かっているようだった。  彼に抱いてもらいたい。  夢の中のように、ひどく、淫らにしてほしい――  ごくっ、と赤川の喉が鳴った。 「すっぽかされるかと思った」 「まさか……私から、お呼びだてしたのに」 「だって、あんたは俺を裏切ったから」  彼は針のように細い煙草をくわえ、ベッドに腰掛けた。探るような目つきで、赤川をなで上げる。 「あんたはせっかく俺に会えたのに、俺を拒絶した。俺たちは毎晩あんなに愛し合ったのに、あんたはただの夢だって言ったんだ……立派な裏切りだろ?」  赤川は言葉に詰まった。棘のような彼の視線が、痛い。  昨日のきつい攻めから感じていたが、彼はそうとう怒っているようだった。細められた目が、今までにないほど冷え切っている。底知れない怒りの気配に、赤川は怯えた。 「あんたはまた尻込みして、逃げ出すかもしれない。それなら、何もしない」 「……私に、どうしろと?」 「誠意を見せてよ」  ふうっ、と青葉は赤川に向かって煙を吹きかけた。すっかり嗅ぎ慣れた、メントールの匂い。それを嗅いでいるだけで、身体がむずむずする。今や彼はそばにいるだけで赤川を欲情させる、唯一の男だった。 「俺から逃げないって、証明して見せて。あんたは俺の物だって、信じさせてくれよ」 「……分かりました」  赤川は意を決し、一つの提案をした。  
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