殺 意

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最寄り駅から徒歩三分、駅前の好立地にあるイタリアンカフェ。恋人達に配慮した小さな二人掛けスペースが設けられた雰囲気の良い店内とテラスが自慢の店だ。初めてのデート、彼女と六時間も居座りお互いのすれ違った人生を埋めるように夢中で話し合った記憶。  僕にとって大切な、二人の始まりの場所。  二ヶ月前にプロポーズした彼女の浮気を知ったあの日も、無意識にこの地に訪れていた。 「ザァ――、――」 『あの日と同じ雨音は変わらない――』  ここに来れば、また、始まりに戻る事が出来るかも知れない。あの日は、きっと心の何処かでそう感じ再訪したのだろう。  無駄な事だと分かっていたのに――。  二百万を超えたダイヤの指輪。一生忘れる事の無いあの煌びやかで神秘的な輝き、今となってはもうどうでもいい。  婚約破棄の条件として呼び出した想い出のカフェ。店先には、見覚えのある花柄の真っ赤な傘が大きく広げられ一人の女性が佇む。 「ザァ――、――」  降りしきる雨の中、傘も持たない一人の男の姿に気付く事はない。 『指輪を返し、彼女は全てを無かった事にするだろう。 そう……、 何事も無かったように――』 「ザァ――、――」 「残念だが、もう、決めたことだから」  
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