殺 意

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殺 意

 理想を描き歩み続けた人生、全ては順調だった。 これまでも、勿論これからも――。  自らを信じ、同じように初めて人生のパートナーとして一人の女性に信愛の念を抱いたのは二年前。ずっと信じていた。  繰り返される平穏な日々、とても幸せな日常。情報社会の昨今、受け止める悲惨な出来事は、悲しみを帯びた瞳を向けるものの全ては自らの生活とは無縁となり記憶に留まる事無く受け流されてゆく。それはつまり他人事だからだ。 「ザァ――、――」  目の前に続くアスファルトを淫雨(いんう)が黒く染め、予想を大きく外した天気予報を思い出す。あの日もそうだった。 『どうやら、人生は理想通りには進まないらしい』  スーツの中に隠し持った刃渡り三十センチのサバイバルナイフ、細身の婚約者の身体に刃先を貫通させるには十分すぎる代物だ。  前髪から滴り落ちる水滴、お気に入りのブランドスーツ、表面には小さな塊が幾つも踊り出す。高額な支払いの対価に答えるように撥水効果は抜群だが、革靴の中へと滴り落ちた不快感は拭えない。 「ザァ――、――」  耳に響く変わる事の無い雨音は、不思議と心を落ち着かせてゆく。 『これから人を殺そうというのに――』  
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