喫 驚

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喫 驚

 オフィスから急ぎ足で乗り込んだ電車。月に一度開かれる彼氏無し限定の女子会、いつしか参加者は減り今ではただの酒乱の愚痴の吐き出し会となっていた。 『男なんていなくても、一人で生きていける』  仕事を愛しキャリアウーマンを気取りながらも、女子会を先に抜けた仲間のSNSに映るウエディングドレス姿を目に羨望の眼差しを向ける。  他人の幸せは素直に受け入れる。一旦、受け入れた上で、酒の肴と化す愚痴を並べるのが真紀(まき)の得意分野だ。揺れ動く車内でドレス姿の画面を消し視線を向けた車窓にはいつしか雨粒が吹き付けていた。 「えっ、嘘っ。今日、雨降らないって言っていたのに」  思わず零した言葉を耳に、車内の乗客も外れた天気予報に対し愚痴が連鎖していた。待ち合わせの韓国料理店は最寄り駅から徒歩三分、隣接するイタリアンカフェでいちゃつくカップルを目に身勝手な男の採点と、素手でキムチを食べる姿を見せつける暴挙がストレス発散となる。降りしきる雨を目に傘が無いとどうにもならないと到着前に財布をポケットへと忍ばせた。  不意に浮かべた口元の微笑。今日の女子会でどうしても語りたい大スクープに仲間の反応が楽しみで仕方ない。  総務部所属の真紀の元には社内の情報が真っ先に入る部署だ。営業一課所属、武部主任、一ヶ月後に結婚を控えた彼の結婚式が中止になったらしく、その原因が婚約者の浮気だと情報を聞いていた。一身上の都合とだけ式に出席の上司たちには告げていたらしいが、成績優秀な彼に対し営業部内部に妬みを抱く者がいたのだろう。探偵でも雇ったのだろうか、一年以上も二股を掛けられていた彼の悲惨な真相までも暴かれていた。  再び手にした携帯画面、女子会で盛り上がるであろうネタとして、営業成績トップ授賞式の社内会報誌に写る彼の写真が表示されていた。 『こんなイケメンを二股にする女がいるなんて、何だか殺してやりたい』  
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