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辿り着いた女子会最寄り駅、改札を抜けた先には降りしきる雨に足止めとなる人々で溢れかえる。
「ザァ――、――」
「止みそうにないなぁ」
視線を向けた売店へと傘を求め近づくと響く罵声。
「馬鹿やろう! どうして傘がないんだ!」
利用者の多い駅、既に在庫の傘は売り切れたのだろう。中年オヤジの苛立ちを受け入れ、平謝りする売店の女性は外れた天気予報の被害者の一人だ。
「はぁ……、流石にこの雨じゃ無理だよ。仕方ない少し待つか」
携帯を手に仲間に遅れる旨を伝えると、直ぐに傘を持って迎えに行くと返信が届く。男無しの女子の結束はとても強いと感じた瞬間だと思う反面、事前に情報をチョイ出しした今日の特ダネを早く聞きたいのだろうと脳裏に浮かんだその時、見覚えのある一人のスーツ姿の男性が視界に入る。
「あっ」
身長百八十センチ、細身、凛とした姿勢で着込む真っ黒いビジネススーツ。
「ザァ――、――」
ほんの数分前、携帯画面の中で表彰状を手に微笑みを浮かべていた武部主任。
「ザァ――、――」
雨は視線の先のいたる所に水溜まりを形成し人々の行く手を阻む。駅の雨よけ庇間際に少しでも雨脚が穏やかになる時を待つ人々、その人集りをすり抜けた彼に、周囲の視線が注がれた。
「……」
誰一人声を発しない。正しくは現状を理解するのに時間を要していたのかも知れない。
「ザァ――、――」
降りしきる雨音――、黒く色を染めたアスファルトに弾かれる雨粒、地を這うように流れ大きな水溜まりへと合流する流れさえもまるで無いように、彼は一瞬も躊躇することなく傘もささず平然と雨の中を歩き始める。
その姿を目に売店前で罵声を浴びせていた中年オヤジも静まり返った。雨が上がったと錯覚する様に――。
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