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恋人になってからだって別に何もなかったではないか。大人だし、恋人になったらどういう関係に変わるのか位は知っているつもりだ。
でも、お前は何もしてこなかったじゃないか。一緒のベットに寝たって、キスするだけで、なにも。
「……我慢してた?」
「……してなかったって言ったら嘘になるけど、別にそれは……まぁ、してたけど……したかったけど、でもオレはゆっくり付き合っていけばいいって思って……」
「……ごめん」
「謝らなくていいって、別に謝る事じゃないだろ」
スマホスタンドからスマートフォンを取り上げ、顔の高さに持っていき、オレは改めて三田村と向き合う気持ちで口を開いた。
「……明日やっぱオレ仙台行くわ、一緒に観光して牛タン食べようよ」
「は?」
清々しい気持ちで言ったのに、三田村は固まったまま間抜けな顔で一言だけ言った。
「午前中には」
「待て待て待て」
「何だよ」
「なんでそうなるんだよ」
「お前が、ゆっくり付き合いたいって言ったんだろ、じゃあ、その方がいいかなって、だから明日は仙台行ってお前の言う順番通りに付き合うよ、そういやデート、初めてだな」
「……デート……」
まんざらではない、という顔の三田村は考え込むように沈黙した。
「東北新幹線だよな、切符スマホで買えるから買っとくよ、到着時間分かったら連絡するから」
「……」
「なんだよ、不満?」
「……不満じゃないけど」
明らかに不満そうな顔でそんな事を言う。
オレとしては最初のプラン通り、三田村の出張が決まってから考えていた予定通り仙台デートを決行したい。別に仙台に行くのが初めてだからという理由ではない。決して。
「……初デートが仙台なんて、良い思い出になるじゃん」
「……まぁ……うん……そう、だな……?」
「一緒にお土産選ぼうよ」
「……うん」
三田村は仕方ないという風に肩を竦めた。ムカつくがこういう仕草が似合う男だ。イケメンずるい。
「じゃあ、そろそろ切るよ、切符買いたいし」
「好きって言わないの?愛してるでもいいよ」
ニヤニヤ笑いながら言うな。いや、真剣に言われた所で取り合う気はないけど。
「欲張るなよ、おやすみ」
「おやすみ」
オレは通話が終わるなり、テーブルに腕を伸ばし突っ伏した。
「はぁ……」
これが正解なのかは分からないが、まだ付き合って2週間。三田村はゆっくり付き合っていけばいいって言ってくれた。
オレはちょっと焦っていたのだろうか。
ほっとしている自分がいる。自分で言ったのに。
初デート。一応三田村は喜んでくれた……のだろうか、よく分からないが、押しきってしまった感はあるものの、どうしても嫌なら断っている筈だ(デートを断るのもどうかと思うが)
三田村と付き合い始めてまだ2週間。毎日顔を合わせる度に感じるのは、オレはこいつの事好きなんだなぁって気持ち。
何気ない優しさとか、気遣い。それは今までもあったけど、その一つ一つが嬉しくて。その嬉しいという気持ちが自分ではまだくすぐったくて恥ずかしい。
今も自分から通話を切ったくせに顔が見たいと思っている。始末が悪い。
寂しい、なんて思った事なかったのに。
2週間、それが1ヶ月、半年、1年と、時間が経って変わる想いはあるのだろうか。全然分からないけど。今だってちょっと面倒くさい奴だなって思うけど、それがなくなる事あるのかな?想像がつかない。
側にいて欲しい。多分素直に言えないと思うけど、お前が同じ気持ちでいてくれたらいいな、そんな風に今は思う。
「あいしてるよ」
おやすみに乗せた想いは伝わっただろうか?
完
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