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「香川は?」
「は?」
「好きって言ってよ」
「今じゃなくてもいいだろ」
「だってどうせ言わないだろ……てゆか、オレ達付き合ってるんだよね?」
急に真面目な顔で三田村が問う。
そんな事聞かれると思わず、一拍遅れる。
そもそもお前オレにプロポーズしたよな?一応OKしたつもりだったんだけど……。
「……付き合ってるんじゃないのか?」
「そういう認識で合ってる?」
「合ってる」
神妙な顔で頷けば三田村は少し安心したようで表情を崩した。根本を心配される位、お前に気持ちが届いていなかったという事だろうか。ちょっと、それは申し訳ない。
オレはお茶のペットボトルを持ち上げ、一口飲んでから三田村の顔を見て話した。
「明日……休み、取ったんだ」
一瞬意味が分からなかったのだろう、三田村が固まった。
「お、おう、そうなのか?」
「うん……本当は仙台に朝行こうと思ってた、向こうで観光して牛タン食べて日帰りでもいいかなって……でも……」
でも、お前があんな事言うから。
「……部屋で……待ってた方がいいのかなって……お前が食いたい物用意しといた方が……いいのかなって……」
「………お前ね………」
三田村は両手で顔を覆い、項垂れてしまった。画面には頭しか見えない。
おい、どうしたんだよ。精一杯の告白なのに、意味が通じなかったのか?!なんだよ、何か言ってくれよ!
「……お前、それちゃんと意味分かって言ってるの?それとも、なに、お前が夕飯作るって意味?」
まだ項垂れてるので、くぐもった声だ。
「前にオレが作るかって聞いた時、自分が作る方が美味いからいいって言ったんじゃん」
根に持っている訳ではないが、そう言われてしまえば作ろうとは思わない。三田村の言い分は、悔しいが正しいので。
だから、夕飯という意味ではないのだ。
「……お前が食べたいものって聞いたら、オレだって言ったのはお前だろ……」
「いや、言ったけどさ、このタイミングで言われるとは思わないじゃん、お前じゃないけど、順番おかしくない?」
「……おかしくないだろ……?」
「じゃあ、ちゃんと好きって言ってよ」
まだ項垂れているのはダメージが大きかったからだろうか。何だか悪い事をした気持ちになるが、別にそんな事はないと思う。思いたい。
「……明日新幹線乗ったら連絡してくれよ、東京駅まで迎え行くから」
「始発で帰る……むしろ今すぐ帰りたい……」
「は?なんでだよ」
やっと回復したのか、顔を上げた三田村は薄っすらと顔が赤い。だが、開き直ったような口調で続けた。
「なんでじゃないだろ、そんな事言われたら朝まで待っていられないだろ」
「そこは待てよ……ていうか、お土産買った?」
「え?それ重要?」
「重要だよ、楽しみにしてるのに」
「……買ってないけど……」
「じゃあ、始発はだめだ、お土産買ってからな、お店そんな早くに開いてないだろ、笹かまぼこと牛タンな!」
「……分かりました」
強めに言えば三田村は渋々と言った様子で頷いた。
これ以上予定が狂ってたまるか。
「それじゃあ、明日東京駅迎えに」
「いいよ、うちで待っててよ」
「……なんで」
「ちょっと冷静でいられないかもだから……迎えはいいよ……」
「……冷静になるだろ、帰ってくるうちに……」
「ならないよ、なんでなると思うんだよ?!」
理不尽にキレられた。なんでだよ。
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