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「オレの部屋で食べればいいのに」
「いや、おかずあるのオレの部屋だから」
オレはスマートフォンに向かい喋りかける。小さな画面の向こうでは三田村が弁当に入っている唐揚げを食べていた。見慣れたイケメンだが、ビデオ通話は初めてだ。
「あー、いいな、唐揚げ、明日は唐揚げ買ってこよ」
「帰ったら作るよ」
「揚げ物面倒って言ってたじゃん、いいよ、明日は食べてかえ」
「えー、一緒に食おうって言ったじゃん」
「……」
めんどくさいな。
オレは味噌汁を飲みながら、そう思ってしまった。だけど画面の向こうの三田村はそんな事おかまいなしだ、楽しそうに話し掛けてくる。
「じゃあ、帰ったら何食べたいか考えといて」
嬉しそうに笑う。そんなに料理するの好きなのかなって思う。問えば違う答えが返ってきそうだから聞かないけど。
今日は肉じゃがにいんげんとピーマンの塩昆布合え、インスタントの味噌汁に白飯。三田村が用意してくれた夕飯。
いつもと違うのは三田村が出張で仙台に行っているという事。なので、夕飯を食べながらのビデオ通話だ。
オレは自分の部屋から。三田村はビジネスホテル、今日は早かったとかで既にシャワーを済ませホテルの部屋着を着ている。
折角仙台に行ったのなら牛タンでも食べればいいのに、奴はホテルの部屋でコンビニ弁当を食べている。
出張が決まったのは5日前。聞いた時は急だなと思ったが、元々三田村が行く予定ではなかったらしい。
行きたくないとぼやいていたが、しがないサラリーマンなので上司の命令には逆らえない。渋々と三田村はスーツケースを引き、一昨日3泊4日の出張に出かけて行った。
いない間の約束事はひとつ。
毎晩夕飯の時にビデオ通話する事。寝る前とかでもいいだろうと思うが何を食べたか気になるのか、三田村は食べている時にと強要した。
だから一人でもいつもと変わらない。あいつはいないけど、一緒に食べている感じだ。
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