五話 宝玉との交換条件

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〜 竜久 視点 〜 永く失っていた宝玉を手にする事ばかりを考え、気付けば彼女は俺の咥内で血に染まっていた。 それでも声を掛けて口に触れる小さな手に、こんなに小さな獣人だったかと改めて思う。 「 俺は…。御前の毛皮は…美しいと、一目見た時から思った 」 あの夜、こんなにも美しい黒豹がこの世にいるんだと言う事を知る日でもあった。 俺を抱く、本能と欲を只ぶつけて来るのも嬉しかったんだ。 だが、帰らなくてはならない…何故、面倒な長になる為に帰る必要が有るのか分からないが、それでもいつの間にか帰らなくてはならないと言うのが呪いのように、義務の様に頭に染み付いていた。 「 黒変固体種が、呪い…?笑わせるな。竜族は、黒化した奴程…力があると言われている。俺も…御前達で言う黒化じゃないか…。そんなの、クソどうでもいい 」 呪いと騒がれた後、古い本を読んでそう呼ばれる理由を知った。 全て自然災害や他の野生の獣からによる感性病とか、理由を探せばいくらでも有るようなものだった。 それを全て、呪いとくくりつけていた本が馬鹿らしく思えた。 「 御前に…名前を教えたのは、名字は赤の他人の老人夫婦のだからだ。だから、俺が…この地で決めた名を教えた…そうだな、少なからず、呼ばれたいと思ったのだろう…… 」 咬んでいた口から離し、掌へと落とせば身を倒した彼女をそっと支え、顔を寄せる。 「 俺は…ファルク…。竜族の、ファルクだ…。レイバン 」 「 ファルク…良い名前だ 」 「 そうか、ありがとうな… 」 そっと手を伸ばす彼女に、口先をそっと向け押し当てれば触れる手の温もりに胸元は痛みを帯びる。 「 俺も…あの日から…、御前のことを考えていた…。お高く気取ったαは嫌いだが…御前は嫌いじゃない… 」 「 それって…どういうことだ? 」 「 婚約…受け入れてやるよ 」 「 へ……? 」 そんなに驚かなくていいだろ、と思いそっと顔を空へと向けた後に溜め息を漏らす。 「 竜ってバレないままってのも、掟だったからな…バレたから帰れない。だから、俺は地上に留まるしか無い。実家に帰りたくても、帰れない理由が出来た 」 「 本当のいいのか……? 」 「 嗚呼……。竜の掟は厳しいんだ 」 宝玉を落とされた時点で、上手く持ち帰れるわけがない。 もし持ち帰ったところで、俺を毛嫌いする連中からイジメに合うだけだろ。 そんなの、平和な地上より面倒くさい。 何故…そんな場所に戻ろうとしたのか不思議だと思う。 「 じゃ…私の…番に、なってくれるのか? 」 「 嗚呼…御前の、番になろう 」 顔を寄せれば彼女は嬉しそうに俺の口先へと口付けを落とした、片手を動かしゆっくりと首後ろへと向け乗せれば、そっと鬣を掴んだ彼女は笑みを浮かべる。 「 宜しくな、ファルク! 」 「 竜久でいい。地上の名で俺は生きる 」 「 竜久! 」 身体を揺らし、地上に戻るべく進み始める。 「 嗚呼…レイ。咬んで悪かった?痛かったろ? 」 「 ……うん、でも、平気 」 「 …看病と、部屋を片付けるのは手伝うから許してくれ 」 「 分かった、それで手を打とう 」 背中で笑ってる彼女にそこまで傷について気にしてる様子はなくて良かったと安堵していれば、空から聞こえてきた声に止まる。 ゙ ファルク、御前は地を選ぶのだな ゙ 「 父上…いや、長と言うべきか。嗚呼、俺は地上を選ぶ。彼女と生きることを選ぶ。だから、長の件は他の兄貴達にやってくれ 」 ゙ 残念だ…御前には期待していたから残念だ。だが…… ゙ 「 なんだ…? 」 面倒な長なんてしなくていいじゃないか もう、十年もこの地上に馴染んできたのなら其れでいいと思えば、長の声は気持ち悪い程に少しだけ高くなった。 ゙ 孫は見せに来ることを許そう。じぃじは楽しみにしてるぞ ゙ 「 気が早い…… 」   レイすら呆気に取られてる内容だが、孫に弱いのはどの種族も変わらないんだと分かれば、空から何かが降ってきた。 「 なにこれ? 」 ゙ 仙桃だ。傷によく効く…食べるといい。息子の伴侶よ ゙ 「 ありがとう!頂きます、お義父さん! 」 ゙ …悪くない響だ ゙ そう言った長の声や気配は消えた為に俺達もゆっくり屋敷へと戻った。 「 背中で食うなよ!ベタベタするだろ! 」 「 んん、おいしー 」 案の定、風呂に入りたいぐらい背中が気持ち悪いが彼女の傷が治ったなら如何でもよく思えた。 「 宝玉は返す… 」 「 なら、片付けは簡単だな 」 三毛猫や虎達には多少睨まれたが、宝玉を受け取った俺はそれを持ち能力を使った。 僅かに時間を戻し壊れる前に屋敷に戻せば、彼等の機嫌もそこそこ良くはなる。 「 今回の件は、レイ様が後無事なので許しますが…次に暴れたら三枚下ろしにしますから 」 「 分かってるさ。気を付ける 」 「 竜久〜!祝言はウェディング、ドレス着たい!白、装束ってのも…! 」 「 白無垢な。何方も俺が決めてやるさ 」 「 やった!! 」 「( やれやれ…これなら子供も早いですかね… )」 ウェディングドレスは俺が自信を持って見立てた。 白無垢は余り代わり映えがしないから、衣装替えの方を何個か決めた。 呼ぶ者達は俺の会社の者たちから始め、何故か竜族の身内が人型の姿をして何食わぬ顔で参加していた。 そして、彼女のアスワド家の者達も最初の結婚式だけ現れた。 俺を見に来たのだろうと察したが、俺達は余り気にしなかった。 三毛猫の茜は今更とばかりに不機嫌だったが、彼女が気にしないのなら何も言うこともなく、楽しい結婚式はティガーがウェディングケーキをぶっ壊すという派手に終わった。
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