三話 黒豹の恋煩い

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「 なんか…発展した? 」 「 八年も経っていれば、そう思うでしょうね。私達は買い出しに来るので余り実感は湧きませんが 」 街へと来れば車の中から建物を見て、あんなに高いビルはあっただろうかと疑問に思うほど。 そして何より人族が多く、それに交じって歩く獣族らしき者達も分かる。 顔の作りが根本的に違うし、完全に人型になっていても雰囲気や立ち振舞で分かる。 イヌ科はピンっと背を伸ばして堂々と歩き、ネコ科は少し猫背でゆっくりと歩く、 そして馬や麒麟は首を伸ばしたように辺りを見渡し、小さい者達は周りをキョロキョロしながら早歩きで進む。 そのどれでも当てはまらず、獣人を本能的に避けて歩くのが人族だ。 「 こう見ると…人族の方が多いんだな 」 「 街によっては割合が違いますが、この辺りは人族のオフィス街なのでそう思うかも知れませんね 」 「 へぇ…… 」 自分が外の世界を拒んでから、こんなにも人族の割合が増えてる事に驚いた。 もう、大通りで解体ショーを始めようとする奴は現れないだろう。 裏道にいるとしても、前より数が少ないのは確かだ。 そして人族が増えたことで、 尚更…お互いが認め合って居ながら干渉しないと言う法律が成立したことで、それぞれの種族が入る店も増えた。 公衆トイレは人族用と獣人族用もあり、 スーパー、飲食店、雑貨、服屋も其々の場所が並んである。 同じ空間に居ながら干渉しないのだから、不思議な光景だと思う。 建物に吸い込まれるように自分達の種族の元に入る。 中には間違って入って子供が、警備員さんに連れ出されてる光景もあるほど。 それだけ近い割には、仕切られた生活をしてる。 友好関係と言いながら、見えない大きな壁が存在する。 「 どの辺りで降りますか?街を観光してみますか? 」 「 へっ?降るわけ無いだろ。私は車の中から探してる 」 「( 何の為にメイクをしたのだろうか……仕方ないですね。 )そうですね、まずは風景だけでも慣れましょう 」 ちょっと車から降りるには抵抗があるために、近くの見晴らしのいい有料駐車場に止めてから窓から外を眺めていた。 二時間程、車の中で眺めていれば少しは出てもいいんじゃないかと思い始める。 「 茜、出てみようと思う 」 「 ふぁ〜宜しいので?では、行きましょうか 」 猫である茜は退屈で軽く仮眠をしていたが、 名を呼んだ声で直ぐに起きれば、大きな背伸びを一つし、先に車から降り私の乗ってる方側の扉を開く。 それに合わせゆっくりと外へと脚を出し、差し出された手を取り一歩踏み込めば、外の空気と大きく聞こえる街の音に緊張すらする。 「 私はα……。堂々と…… 」 「 えぇ、レイ様は普段通りに歩けば問題は有りません。胸を張って落ち着いて歩いてくださいね 」 「 嗚呼…分かった 」 車の扉を閉められ、一気に緊張感走るも深く呼吸を繰り返せば、日傘を持ち開いた茜の腕に片手を置きエスコートされながら歩き始める。 街のコンクリート…これを歩くのも八年ぶり。 どれだけ屋敷から出なかったのか思い知らされる程、他人に対しての人見知りが発動する。 よく、あの男にはそれが出なかったなと誉めたいぐらいには人見知りする余裕は無かった。 もしかしたら、それがΩだと本能的に知ってたからこそなのかも知れない。 「 ヴヴッ…… 」 「 無意識に唸るのは止めましょう。大丈夫です、今の私達は一般人としか思われてません 」 「 それならいいが…… 」 私達は本当に一般人に思われてるのだろうか、もしそうならもう少しだけ歩けるのでは、と道路脇にあるガラスに映る姿を見て思う。 「( いけるかもしれない…… )」 獣人やαの雰囲気を出さなければ、私は何も言われる立場でないのだと思った。 それが隣にいる茜によって、そう思わせてくれるなら、街に出て来て少しは良かったと思う。 「 大丈夫ですか、レイ様 」 「 大丈夫、ありがとう…茜 」 「 いいえ、御辛くなったら言ってくださいね 」 優しげに笑った彼を見上げれば、何だか頬が熱くなる気がして軽く目を逸らしては、言葉を探し、目についた店へと指を向ける。 「 見て、凄く綺麗なドレスだ! 」 「 嗚呼…これは、人族が着るウェディングドレスっていうやつですよ 」 「 ウェ、ディングドレス……? 」 スリムな人形が着ているドレスを見上げれば聞き覚えの無い言葉に疑問を抱き、茜へと視線を向けた後、もう一度ドレスを見上げる。 「 えぇ、獣人は各一族に伝わる婚礼の義を行いますが、人間は皆似たりよったり。居るわけもない神の前で愛し合うことを誓うんですよ。獣人は、一族に誓いますがね 」 その時に着る衣装だと告げれば、とても大切な時に着るドレスなのだと改めて思う。 「 人族は…綺麗なドレスを着るんだな 」 「 大半の者は他に着るときが無いので、晴れ舞台だけは、ってやつですよ 」 「 へぇー…… 」 獣人は婚約パーティーや顔合わせなどでパーティードレスをよく身に纏う。 けれど人族はそれを着る機会が少ないのだと思っていれば、長く見ていたせいで中から人族のスタッフが出てきた。 「 宜しければ中で見てみますか? 」 「 あ、私達は… 」 「 いいじゃないですか。見てみましょう。いつかの為に 」 「 そう、だな…… 」 いつかの為に、それはどういう意味なのだろうかと疑問になるも、茜が片手を取り引くのに合わせて吸い込まれるように中へと入る。 「 わぁー……! 」 「 では、ごゆっくり 」 中には外からでは見えない程のドレスがあり、中には色が付いたものも存在するが、その大半が真っ白な純白のウェディングドレスと言うやつ。 こんなにも種類があるんだと見ていれば、ふっと離れた店員が女性の店員と話してるのが聞こえてきた。 「 あの雰囲気、獣人ではないでしょうか?流石に…副代表に叱られますよ… 」 「 バレなきゃいい。見たところ金持ちそうだし、適当に買わせて帰らせりゃ 」 「 で、ですが…… 」 「( やっぱり…雰囲気でバレるか )」 人族と違い、獣人は聴覚に優れている。 些細な声でも聞こてる為に少しだけしゅんと落ち込めば、茜は軽く肩に触れ引き寄せた。 「 見るだけにしましょう。あちらとか、綺麗ですよ 」 「 あ、うん…そうだな 」 考えても仕方ないと気を取り直して見る事にした。
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