137人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
〜 竜久 視点 〜
俺は何故、嫌われてるのか…その理由をすぐに知る事になった。
黒豹があの時、他の連中が一切気にもしない子供を助けた瞬間を俺は見ていた。
フェンスを軽々と飛び越え、そのまま子供の服を咥えればもう一度のジャンプで距離のある反対側の歩道まで跳んだ後ゆっくり下ろしたんだ。
その瞬間に見せた、黒豹の安堵と俺と同じタイミングで声を掛けたあの三毛猫も安堵したが、直ぐに女の悲鳴と周りの言葉で意味を知る。
黒変固体種が呪い…?
そんなの誰が決めた?
寧ろ天空では、貴重だと一目を置かれる存在であるのに何故此処では、そこまで毛嫌うのか。
「 あの黒豹が、命を顧みず子供を助けたのは誰も見てないのか!? 」
「「 っ!! 」」
「 御前等は…。本当に…屑だな 」
天罰を食らうのは御前等の方だ。
何が呪いかは知らないが、走り去った黒豹を追い掛けようとすれば、三毛猫は案外走るのを止め立ち止まれば、此方へと戻って来た。
「 おい、追い掛けないのか? 」
きっと追い掛けると思っていたからこそ声を掛ければ、血走った目を向け左右の瞳が違う男は振り返った時には獣人の容姿をしていた。
「 相手は大型の黒豹ですよ!?時速五十八キロで走る豹に、四十八キロの猫が追いつく訳ないじゃないですか!車で追うに決まってます! 」
「 あ、あぁ…そうだな…… 」
滅茶苦茶な正論をぶつけられるとは思わなくて戸惑えば三毛猫は、黒豹が助ける為に脱ぎ捨てた服やら靴といった物を拾い直しては歩いて立ち去った為に、
俺は一旦店に戻り、彼等に店を離れる事を伝えて、三毛猫を追う。
「 おい、待て!茜…だったか、俺も探すの手伝ってやる! 」
「 結構です。レイ様は、私が見つけます。私の…大切な、家族なので…… 」
「 だが…… 」
……俺が探したところでどうなる?
大切な家族が、呪いとか、食う様子もないのに食われると言われ、物を投げつけられたのを見て平気でいられるか?
婚約を拒否した俺が、その大切な家族を探す価値なんて無いんじゃないか?
獣の耳を下げ、見るからに落ち込んで歩く三毛猫の後ろ姿を見て、俺は自分の立場に戸惑った。
「 そう、だよな…。婚約を断った俺が、探したところで期待させるだけだろ…… 」
三毛猫より先に見つけては駄目だ。
それをハッキリと理解したから脚は動けなくなった。
もし俺が、竜の力を持ち…瞬時に竜になれるならあの黒豹みたいに身バレをするリスクを背負ってまで他人の子を助けたか?と問えば、それは間違いなくNOだ。
俺は…自分を守る為に子供を見捨てただろう。
そう思うと、俺が…彼女を探しに行く理由がない。
まだ黒豹が掛け走ったのを見た瞬間に脚を動かした、あの三毛猫の方がその権利がある。
「 こんなんじゃ…彼奴を嫌わねぇじゃないか…… 」
助けた瞬間、ヒーローかと思った。
美しい毛皮が太陽によって光り、艶めいて見えた。
華麗に反対側へと着地する姿さえ、スローモーションの様に脳内をリピートする。
自分勝手なαは嫌いだが、誰かの為に命を張るような姿を見れば嫌う事は出来なくなる。
それが腹立たしい……。
「 チッ……。俺の方が、欲に惑わされてばかりの屑じゃねぇか…… 」
探しに行くことも出来ず、嫌いになりきれず、中途半端な存在に嫌気がしてその場から背を向け、店の方へと戻った。
何処から来たのか分からない報道陣は、周りの通行人や母親の言葉を鵜呑みにして訳も分からない内容をニュースに流すのだろうな。
一時、TVは付けないことを決めた。
「 副代表…戻って来られたのですね? 」
「 俺は仕事に戻る。君等は、報道陣が来ても何も言うな。どうせ…何も見てはないのだろう 」
「「 はい…… 」」
俺は何も出来ない。
その代わり、少しでも嘘を発言する奴が減ればいいと…それだけを思い手に付く訳もない仕事へと戻った。
只、直ぐに…あの黒豹が見つかればいいと密かに思う事だけは許してほしい。
〜 茜 視点 〜
レイ様が…やっと閉じこもっていた殻から出ようとした記念すべき一日目でこんな事になるなんて思わなかった。
「 レイ様…何処に… 」
あの蛙の顔や姿なんて正直、記憶にない程に私の頭の中には辛そうな顔をして立ち去るレイ様の姿が焼き付いて離れない。
許されるならあの場にいた者達を八つ裂きにしたい気持ちが駆られるも、そんな事をすれば尚更、レイ様が悪者扱いされるのは目に見える。
「 何が呪いだ…そんなの、傍にいて感じた事は無かった…… 」
彼女が八歳の時から傍にいるが、大人が告げるような呪いの分類は私自身に向けられることは無かった。
全てがデタラメで偶然が重なった言い訳だと知った時には、冷たい目を向ける大人達の代わりに愛情を注いで守ろうと心に決めた。
「 それなのに、また…守れなかった…… 」
街を知らないレイ様が何処にいるかなんて感でしか無く、兎に角車を走らせるしか探す方法は無い。
泣きたいのは私ではなくレイ様だろうが、涙は頬を伝い流れ落ちる。
其れを拭きながら、人がざわついてる横を通り過ぎていく。
走り去った先は合っているでしょう…。
「 レイ様…… 」
猫科の本能、逃げるなら薄暗く狭い場所を好む。
獣か人の姿になって隠れたのかは分からないけど、それでも人通りが多い場所から離れてるのは確か。
昔から、かくれんぼはいつも見つけ辛い場所だった。
最初のコメントを投稿しよう!