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御互いに車の為、三毛猫の後を走行する形で向かう事になった。
私有地の駐車場へと車を駐めれば、正門から入るのかと思えばそんな事はなく、その駐車場から屋敷に繋がる道を進み、横から入る事になった。
やっぱり横からなのか、と思うが彼奴の部屋の前よりマシだろう。
「 靴を脱いで、こちらをどうぞ 」
「 嗚呼…お邪魔します 」
獣人の私有地にまともに訪問するのは初めてだ。
人族側であった俺には違和感あるが、デカい平屋の日本屋敷という点以外は、獣人が住んでる様には見えない。
それに、良い所育ちと思っていたのだが思った以上に使用人が少ない気がする。
向けられたスリッパへと履き直し、彼に連れられる様に後を追うも、他の使用人に会わない。
何人いるんだ?と聞くのも可笑しいかと思い、その疑問は口には出さず心に閉まったまま通された客間へと入る。
「 此方で御待ち下さい。すぐにレイ様をお呼びします 」
「 嗚呼…… 」
そりゃそうか、本人の部屋に直接招かれたあの日が違うんだと改めて思う。
部屋を見渡せば、虎や竜ではなく豹が画かれた掛け軸やお高い和柄の花瓶に胡蝶蘭が挿してあったりと、シンプルながらに纏まった雰囲気がある。
三毛猫の獣人が立ち去った後、置かれている座布団へと座れば何やら声が聞こえてきた。
「 おっとと…危ねー…… 」
「 ん? 」
「 ゆっくりですよ!御相手はレイ様の婚約者様なのですから 」
「( いや、違うが… )」
襖越しに聞こえてきた通路側の声に心の中で否定していれば二つの影の片方はしゃがみ込んだ。
「 失礼します。御茶をお持ちしました 」
「 嗚呼、どうぞ… 」
そんな御茶を出されるぐらいは居ないつもりだが、と思うが声を掛ければゆっくりと襖は開く。
頭を下げていた小柄な女が顔を上げれば、僅かに息を呑む。
「 私はベルと申します。此方はティガー 」
片方は黒い繋ぎ服を着た茶髪に黒いメッシュの入った少年らしき人物の方がお盆を持っていた。
無理も無いか、こっちの小柄の女は両目が火傷で覆われたように目が見えてないように思える。
彼等にペコリと挨拶すれば、茶髪の少年は俺の元まで来ればテーブルに御茶と猫の形をした和菓子を置いた。
「 よし、出来た。それじゃ、ごゆっくり 」
少し茶が減ったような湯呑みだが、それでも満足気に置いた彼は犬歯が見える白い歯で笑えば、湯呑みから目線を俺へと向けた。
一瞬、猫科特有の獣人の瞳に驚くも、彼はじっと俺を眺める。
「 Ωっぽく無いよな…。レイ様もこんな奴が好みとは…知らなかったぜ 」
「 だ、ダメですよ!ティガー様。そんな事を言っては! 」
焦るように止めに入る女性にティガーと呼ばれ少年は眉を寄せた。
「 …まぁいいけど。それじゃ 」
顔が見たくて入ってきたのだな、と分かれば彼等はこの部屋を後にし、廊下で少しばかり言い争っていた。
「( 婚約者では無いのだがな… )」
湯呑みへと視線を向け、何気無く手に取れば表面が冷たい事に彼等の猫舌に合わせてるのだと思い、一口飲む。
「 ん…なんだこれ? 」
飲んだことの無い独特な甘味のあるお茶の為に人族が飲む物と違うなと思っていれば、襖は開く。
「 猫草だ。イネ科の植物で、便秘にもいいし、毛玉を吐くにも丁度いいだろ? 」
「 猫草…俺は猫では無いんだが… 」
「 許せ。久々の客だから、客用の茶葉が無かったんだ。きっとな 」
「 そうか、まぁ…美味い 」
猫ではないが、煎じているのか香ばしさもある為に悪くない味だともう一口飲んでいれば、黒い布に椿柄の着物を着た彼女は何食わぬ顔でテーブルを挟み、俺の前へと座った。
あの三毛猫は居ないのを見ると、二人で話せってことか……。
「 それは良かった 」
自分が提供したように笑う彼女は、あのドッキングドレスを着た雰囲気とは違い、おしとやかさと色気が増してるように見える。
流石、女は着るもので変わるな…と思えば話に詰まる。
なんてキリ出せばいいか分からず、湯呑みをそっとテーブルに置けば彼女の視線が和菓子に向かれてるのに気付く。
「 欲しいなら、食べればいいだろ? 」
「 いいのか!?やった 」
軽く皿を掴み彼女の前へと置けば嬉しそうに手を伸ばすタイミングで、襖は開く。
「 お客様の物を食べる主が何処に居るんですか、駄目ですよ。こっちをお食べなさい。竜久様、申し訳ありません 」
「 えー、あ、でもあるならいいや 」
「 別に謝るほどではないが… 」
寧ろ渡そうとした俺が怒られるべきでは?と考えたが、彼女は気にもせず三毛猫が置いた俺と同じ御茶と和菓子へと視線を向ける。
「 この和菓子は、外は黒砂糖の生地、中は抹茶の餡が入っています。どうぞ、食べてみてください 」
「 嗚呼、では頂きます 」
目の前では隠す必要が有るだろう、獣の尻尾と耳だけを出した彼女が備え付けの三角棒を使う事なく手で掴んで口へと運ぶのを見てから、俺は三角棒を摘み一口サイズに切れば口へと含む。
「 ん…、確かに美味い…… 」
「 それは何より。猫科は美食家が多いので 」
甘さ控えめな餡の為に食べやすく、この香ばしく甘めのある猫草のお茶と良く合う。
ついつい全て食べる勢いで口に入れていれば、先に食べ終わった彼女は強請り始める。
「 茜〜。もう一つちょーだい? 」
「 明日あげます。今日はもう駄目です 」
「 ケチ…… 」
猫が飼い主におやつを強請るのと似てると思うほどに、彼に片手を向け手招きするような仕草を見てるとそう思う。
まぁ、そんな御強請りなんて、彼には効果無かったようだがな。
不貞腐れ、テーブルに頬を付きだらける彼女はふっと俺の横に置いてあるビニール袋へと視線が行く。
「 それ、なんだ? 」
「 嗚呼…これ、良いのがあったから買ってきた 」
「 へ?私にくれるの?なになに? 」
俺から切り出す予定だったが、丁度いいとビニール袋の下側を持ちテーブルに置けば、彼女は同じ様に下側を掴み引き寄せ、中を覗く。
「 白い花だ!匂いの正体はこれな…なんの花だ? 」
「 確か、トルコキキョウってやつだ 」
「 へぇ、綺麗な花だな。ありがとう 」
「 嗚呼 」
緩く揺れる獣の尻尾を見てると興奮と興味が有るのだと見て分かる。
彼女はそれを眺めていればハッとしたように立ち上がる。
「 じゃ、私からも面白いの見せてやる。これを部屋に飾ってこよう 」
「 面白いもの…? 」
なんだ?とばかりに立ち去った彼女に疑問になるも、三毛猫の彼は小さな溜息を漏らし、答えた。
「 猫科は、お気に入りの物を見せたがるのですよ。例えば捕まえた獲物を飼い主の元に持ってきたりとか… 」
「 嗚呼、なるほど 」
流石、猫…いや、大型だが…それでも似たようなものかと思っていれば然程、無言な空気は嫌ではなく、残りの和菓子を食べ終えていた。
「 スー……… 」
「( 客とか言いながら、こいつは寝れるんだな…。流石猫…… )」
静か過ぎると思った時には、三毛猫は正座したまま眠りに落ちていたが、彼女が襖を開けたタイミングで目を開けていた。
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