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プロローグ
19☓☓年9月6日
アスワド家の一室で二頭の幼い獣が産声を上げた。
誰からも愛され、祝福されるはずだった双子。
けれど、その姿を見て助産師は悲鳴を上げ、父親は言葉を失ったと言う。
片方は美しい金色の毛並みを持ち、黒い斑点が出てるのにも関わらず、妹であるその身体は全身が純黒で覆われ、本来有るはずの模様の無い姿をしていたのだから。
「 これは…呪いだ…… 」
永く生きている老人はそう小さく呟き、
母親は涙を流し二匹の豹を抱いた。
獣人の間で、全身が黒く覆われだ黒変固体種゙は災を齎すと言われ恐れられていた。
千年前、黒い体毛を持つ獅子が王として一国の王に君臨した後、彼の周りにいる者から徐々に原因不明の病で次々に死に絶え、
終いには国民を含めた一国が消えたという。
その国の跡地では今でも、原因不明の流行り病が続いている。
その後、六百年前にも貴族の長女として生まれた黒鹿は、彼女が街を離れた後、彼女の住んでいた屋敷は落雷によって発火し、その一帯の森含めて焼け焦げたという。
黒鹿だけは生き残り、彼女は絶望の果てにその地で自ら首を吊って自害した。
その森は、今でも草一本と生えることは無かったと聞く。
そして三百年前、海沿いに住む鳥類の中で、黒化したペンギンが孵化をした。
噂を聞いていた周りの者達は、そのペンギンを寒い地域へと一羽で送ったらしい。
だが、道中…彼が乗っていた船は送り届けた後に沈没し、彼が生まれた海沿いには大量の汚染物質が流れ、多くの鳥類や魚介類が命を落とした。
氷の国で一羽で生きた、黒化したペンギンの彼だけは何事も無く生きていたという。
これだけじゃない、語り継がれている黒化の災いは多く存在する。
傍から聞けば他人事だと思うかもしれないが、黒化の固体が生まれてなかった一族からすれば突然変異で生まれた時点で恐怖心を感じるもの。
何処からの遺伝なのか、それすら徹底的に調べても答えは何も見つかりはしない。
彼等は出来るだけ、黒豹の子供を刺激しないよう育てようとしていたが、毛色の違いに幼心に気付いた姉は、妹を嫌っていた。
そんな中、悲劇は起こった。
「 あ゙ぁ、ヘーゼル……!! 」
一歳のお披露目会が、あと二週間程で行われるという時、姉のヘーゼルは原因不明の発熱をし、高熱によって此の世を去った。
幼い身体には些細な寝冷えから来る高熱で亡くなったのだと、一部の大人は呟いたのだが、ある一人の使用人は黒豹の妹へと指を指した。
「 呪いですわ!黒化の、呪い!! 」
跡取りの予定であったアスワド家の長女が亡くなった事に、多くの者が悲しんでる中で使用人の女が口にした事は不謹慎であった。
「 呪いでヘーゼル様が亡くなったと言うのか!? 」
「 免疫力の弱い獣人の子は、元々亡くなり易いだろう… 」
「 じゃ、何故。同じ環境にいたレイバン様は何もないの!? 」
免疫力の強さ、そう言えばいいだけの事なのに、大人の視線は幼い子供には冷たく突き刺さるもの。
呪いかも知れない……、そう言い始めてからは些細な事も全て呪いだと告げる。
ベランダの花瓶が落下し、下に居た使用人が怪我を追い、ある時は車の運転ミスを暴走したと括り付けて事故に合い。
そして、極めつけは最初に呪いと言ったあの老人は心臓発作で亡くなり、指を差した使用人は交通事故でこの世を去った。
黒豹に悪意を向ければ、其れが己に死として返ってくる。
そう大人達は思ったのだろう。
好き好んで黒豹に近寄る事も、聞こえる範囲で嫌味を言う事も無くなった。
誰もが恐れていたんだ、黒豹に近付けば次は自分が殺されると……。
「 ……なんで、わたしは…みんなにきらわれるの……? 」
黒猫の縫ぐるみを抱きかえた五歳児の子供は、唯一心の病に伏せてる母親の元に行き問えば、彼女は失った視力で我が子を抱き締めた。
「 そんな事はないわ、ヘーゼル……。貴女は私の大切な、娘よ…。皆、貴女の事が大好きよ…… 」
「( ママ……わたしは…れい、だよ… )」
母親は唯一美しい体毛を持つ姉を失った事で、黒豹の存在を自分の記憶から無くしていた。
部屋に来る我が子をヘーゼルと思い愛していた母親に、黒豹も自分とは違う名で呼ばれてる事は気付いていた。
記憶の中にはない姉の存在、それと重なられる事に黒豹は心に深い傷を負う。
私は違う、他の誰とも違う存在だと、
強く……強く思い始めた頃には母親の居る部屋に行くことは無かった。
「 愛しいヘーゼル……なぜ、来てくれないの……ゴホッ…ゴホッ!! 」
「 奥様!お気をしっかりしてください!誰か、誰か!奥様が! 」
「 すぐに医者を!! 」
黒豹が八歳を迎える頃、母親は心の病と肺炎によって姿を失った。
滅多に帰ってこない父親は、やっとイカれた頭をしていた妻を失った事に喜び、黒豹の娘の頭を大きな手で撫でた。
「 良くやったな、レイバン。お前は良く出来た子だ…。私の理想だよ 」
「 ………うん、パパ 」
彼は、直ぐに愛人であった貴族の娘を妻として迎えたが、その妻は家に居ることなく夫が与えた別荘で優雅に暮らしていた。
黒豹と関わることが無いように……。
次第に、彼女の周りから使用人が居なくなっていった。
また一人、また一人と荷物を纏めて屋敷から出て行く。
唯一残ったのは、彼女に最初に黒猫の縫ぐるみをプレゼントとして与えた
物好きな三毛猫のオスの使用人と数人だけ。
「 アカネ……なんで、わたしの…もとにいるの?みんな…いなくなっちゃうのに… 」
十六歳となる三毛猫の茜は、左右に違う瞳を細めては片足を付き小さな手を取った。
「 私は、三毛です。三毛猫のオスは繁殖能力が無く価値が無いと捨てられてました。貴女が目を止めてくれなければあのまま、皮を剥がされ絨毯にされていたでしょう。だから、命の恩人である貴女を守りたい。傍にいたいんですよ、レイ様 」
父親と一緒に街に出たとき、鎖で繋がれ見世物として解体される寸前だった彼に目を止めたのは紛れもない黒豹だった。
゙ かわいそう、だから……はなしてあげて ゙
黒化した獣の言葉には逆らって何かあるかわからない為に、商人も直ぐに受け渡した。
そこからずっと傍にいる彼に、黒猫は不思議でならなかった。
助けたつもりは無かったのだから、恩を持たれる程ではないと……。
けれど、今の彼女にはその言葉が救いだった。
「 そっか、ありがとう…アカネ 」
「 いいえ、此方こそ…私と出会ってくれてありがとうございます 」
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