黄 -ki-

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 十五畳ほどの広めの和室に入ると、畳の上には八枚の布団が隙間なく敷かれて、その一角で響野と安西がなにやら話していた。  空き教室にいるときのようにリラックスした雰囲気の彼らを見て、ふと、安西は変わったなと思う。  不遜で反抗的な態度はそのままだけれど、彼の周囲を取り巻いていた薄暗い負の空気を、今は以前ほど感じなかった。授業にきちんと出てくるようになったのも、自然教室のような学校行事に参加できているのも、一連のプラスの効果のあらわれなのだろう。  家のほうでなにか良いことがあったのかもしれないし、俺と同じように空き教室ですごす時間がいい具合に作用しているのかもしれない。  本人にとっては間違いなく事態は好転している。けれど、響野と親しげに談笑する安西に対して感じたのは重苦しい嫉妬だった。仲が良いのはおまえだけじゃないと見せつけられているようで。  自然教室を恋愛のきっかけにする生徒が多いといううわさが真実なら、響野も今日は誰かに告白したりされたりしたんだろうか?  俺に気づいた二人は、「よう」と「おお」の混じったような挨拶をよこした。 「水元(みずもと)、風呂に行けよ。あと三十分くらいで閉めるらしいぞ」  響野の態度はいつもと変わらず、恋愛がらみのなにかがあったようには感じられなかった。パジャマ代わりのTシャツとスウェットを着て、水気を含んだ黒髪からはシャンプーの匂いがする。 「わかった。急ぐ」  夜着用のパーカーを脱いでリュックからタオルと着替えを取り出したとき、「告白されたって?」と安西が言った。
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