黄 -ki-

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 ふい討ちをくらって、半開きのリュックの口に視線を留めたまま動きが止まる。 「他クラスの女子だろ。原田(はらだ)たちが騒いでたぜ」 「……ああ、そう」  宿に着くなり冷やかしてきたクラスメイトたちの顔を思い出そうとした。原田はいただろうか? いたような気もする。 「モテんじゃねーか」 「安西うるさい」 「誰だ?」と今度は響野が聞いた。 「わからない。話したことない子だった。名前は……教えてもらったけど、言わないほうがいいと思う」 「なんで?」 「ことわったから」  ようやく手元のリュックから顔を上げられるようになると、視線の先で響野が首をかしげる。 「付き合わないのか?」  まったく屈託のない問いだった。胸の重苦しさがはっきりと痛みに変わる。どんなに避けようとしても、こんなふうに向こうから飛んでくる球はかわしようがない。 「だって、よく知らない相手だよ?」  響野は考え込むように黙ったあとで「そうか」とつぶやいた。 「“おめでとう”、とか、そういうことを言うシチュエーションかと思った」 「俺の恋が実ったんだったら、そう言ってほしいけど」  今日のは違う。今日のは、彼女の恋だ。そして実らなかった。
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