【16:伏見京香は男子達に絶賛される】

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【16:伏見京香は男子達に絶賛される】

 肩までの美しい黒髪。  少しクールな感じの美少女。  決して巨乳ではないが出るとこは出て、締まるところは締まって、スタイルもいい。  まとめて言えば──彼女はトップアイドルかよ、っていうくらい可愛い。  ほとんどの男子にとって、高嶺の花。  もちろん伏見は、俺にとっても高嶺の花だった。  ──ついこの前までは。  だけど俺はある日突然、まるでホログラムのように、他人の本心や本音の態度が見えるようになった。  だけど伏見がなぜ俺に惚れているのか。  そして伏見京香とはいったいどういう女の子なのか。  それはまだわからない。  ある日の体育の授業中のことだった。  同じグラウンドのこっちで男子、あっちで女子が授業をしている。  お互いに陸上競技の短距離走の授業だ。  走る順番待ちで、固まって何人かと雑談をしていた時に、嵐山が女子の方をボーっと見てるのに気づいた。 「おい嵐山。何を見てんだ?」  視線の先を追うと、二人の女子が百メートル走をしてる。  あれは……? 「いや、なんでもない! 気にするな!」  くるっと振り向いた嵐山の顔が赤い。 「あれは、副委員長じゃねぇか」  他の男子がにやっと笑って嵐山にツッコんだ。  ああ、確かに。  ウチのクラス副委員長の有栖川(ありすがわ) (あや)だ。  彼女は小柄なんだが……男子にめっぽう評判の巨乳が、走るリズムに合わせてゆさゆさ揺れてる。  なんだ、嵐山。  有栖川に気があるのか?  ついこの前には、伏見に振られたって言ってたのに。  でも嵐山もクラス委員長だから、嵐山と有栖川は男女の委員長として、時々一緒に行動してる。  なくもない話、ってわけか。 「おい嵐山。有栖川のおっぱいに見とれてんじゃねぇよ」  山本って男子が茶化す声に、嵐山は焦って彼の背中を手のひらでバンバン叩く。 「うっせぇ、山本! おっぱいに見とれて たんじゃないよ!」  だがしかし。  そう言う嵐山のホログラムは、鼻の下を伸ばしてる。   『そうなんだよー! 有栖川のおっぱい。普段からおっきいと思ってるけど、やっぱ体操着が一番よくわかるんだよな  やっぱ嵐山のやつ。スケベな視線で有栖川を見てたんじゃねぇか。 「あはは、いいんじゃないか嵐山。男子たる者、女子の胸に興味津々なのは、健康な証拠だ。どんどん見ろよ」  俺が嵐山に言うと、 「だから俺は見とれてないって!」と、  信憑性皆無の返しをしてきた。 「あっ、次! 伏見が走るぞ!」  突然山本が上げた声に女子の方を見ると、確かに伏見京香がスタートラインに立ってる。 「伏見も巨乳って訳じゃないけど、胸の形はいいし、何よりスタイル抜群なんだよなぁー」 「おお、そうだよな!」  あーっ、あーっ、あーっ!  嵐山まで同意して、伏見を凝視しやがって!  お前ら!  見るな!  伏見のおっぱいを、凝視しないでくれっ!!  ──とは言え。  さっき嵐山に、女子の胸をどんどん見ろなんて言った俺が、ヤツラに伏見の胸は見ないでくれなんてことを言えるはずもなく。  ましてや伏見のおっぱいは、俺のものでもなんでもないのに。  俺にそんなことを言う権利はないのはわかってる。  だけど、なんでか、嫌なんだよ。  嫌なものは仕方がないじゃないか。 「うぉー、いいなぁ伏見さん! かわいいー!」 「あのしなやかな足! しがみつきてぇー!」  さすがにあんまり変態チックなことは言わないでくれ、お前ら。 「けどさぁ、伏見さんと有栖川さんって、うちの学年全体でも二大美人だよな?」  山本が突然しみじみと言った言葉に、嵐山は腕を組んで、大きくうなずいている。 「ああ、そうだよな。誰もが認める二大美人だ。──と言っても、全然タイプが違うけどな。まず伏見さんは正統派美少女で、近寄りがたい高嶺の花って感じだ。例えて言えばトップ女優」  嵐山がなぜか、急に美少女評論家のように喋り出したぞ。  周りの男子達は、嵐山の言葉に、うんうんとうなづいた。 「それに対して有栖川は人懐っこくて、美人と言うより可愛いタイプ。いわば『会いに行けるアイドル』だな」  そうだな。  有栖川って栗色のショートソバージュで小柄だし、小動物みたいな感じだ。  身長は140センチくらいしかないんじゃないか?  ──なのに巨乳。  誰とでもフレンドリーで、人と接する時の距離感も近くて、『距離感ゼロの女』とも呼ばれてる。  でも伏見と有栖川を、トップ女優と会いに行けるアイドルに例えるあたり、嵐山は美少女評論家として、なかなかやるな。 「まあ美人度に関しては、伏見さんの方が断然上だけどな」  嵐山の言うとおりだ。  だけどフレンドリーさや愛嬌で、有栖川も人気が高いんだ。  横から山本が、ボソッとつぶやいた。 「俺は伏見さん派だな」  そしたら周りにいる男子達が、口々に主張を始める。 「俺も伏見さんがいい!」 「いや、俺は有栖川派だな!」  挙句の果てに、こんなことを言い出すヤツもいる。 「いやもう、伏見さんと有栖川さんなら、どっちでも大歓迎だ!」  その意見もわかる。  全体的に言うと、伏見派と有栖川派は半々くらいだ。  ──と思ってたら、嵐山がこんなことを言った。 「俺は……伏見さんが優しい顔とか、デレっとしたところを見せてくれるなら、伏見さんがいいな」  嵐山のその発言に周りがどっと反応して、口々に悶えるような言葉が発せられた。 「おおーっ! それ、反則だぞっ!」 「そうだそうだ。そんな伏見さんなら、俺だって伏見派だ!」 「でもやっぱり伏見さんも、彼氏の前ではそんな顔を見せるんじゃないのか?」 「うっわーっ! 想像するだけでも悶絶しそう! 伏見さんのそんな姿、見てみてぇ!!」 「そんな伏見さんの姿を拝める幸せ者は、どこのどいつだーっ!?」  もしもデレっとした伏見ならば。  男子からの人気で、有栖川を圧倒的に打ち負かしてしまう──ってことが判明した。  うーむ……  ──ってことは。  ホログラムの姿とは言え、伏見のデレ姿を何度も見てる俺は──  まあ幸せ者ってことだよな?  もしも、これから先。  本物の伏見のデレ姿を見ることができたら。  俺は本物の幸せ者になるってわけだ。  なるほど。  伏見のあの姿を見れるのは、今のところ俺だけだ。  ──って言うか、アイツはあれで、結構ポンコツなんだけどな。  誰もその事実を知らない。  そう思いながら、俺は遠目に伏見と、そして有栖川の姿を眺めていた。  有栖川 綾。  それまでほとんど接点のなかった、もう一人の人気女子。  彼女とも深く関わるようになろうとは、その時の俺は、思ってもみなかった。  ──なんちゃって。
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