【18:伏見京香は嫉妬する】

1/1
前へ
/38ページ
次へ

【18:伏見京香は嫉妬する】

 偶然店の前を通りがかった伏見を、マックに誘ったら。  なんのために?  ──なんて抜かしやがった。  本音では誘ってもらって、めちゃくちゃ喜んでるくせに。  なんと答えたら、伏見はついてきてくれるんだ?  ああ、もうわからん!  (むず)すぎる!  ええい、くそっ!  ストレートに言ってみるか! 「いつも教室では顔を合わせてるけどさ、たまにはゆっくり伏見と話をしたいと思ってさ」 「ふーん。それって、いつも教室では顔を合わせてるけど、たまにはゆっくり私と話をしたいってことかしら?」  いや、だからそう言ってるだろー!  なにクールな顔で、まんまおうむ返ししてんだよっ! 『ありゃりゃー。 あまりに嬉しくて、テンパって、ワケわかんないことを言っちゃったーっ! 勇介くーん、ごめーん!』  あ……本音はそういうことか。  わかったよ伏見、あはは。  許してやる。 「ああ、そうだよ。だめか?」  伏見はフッと小さく息を漏らして、ちょっとあごを上げて、美しい所作で片手で髪をかき上げた。 「わかった。東雲(しののめ)君の熱烈なる懇願に免じて、今回はお付き合い()てあげるわ」    おーい伏見!  俺は熱烈なる懇願までしてたかー?  誇張するんじゃねぇ!  それに──今、噛んだよなっ!  そんなにクールな仕草をしておきながら、今、間違いなく噛んだよなぁー! 『ふぇーん……ぐすん。せっかくツンツンクールキャラで決めたのに……噛んでちまいまちた』  伏見……お前、落ち込み過ぎだ。  更に噛みまくってるぞ。  まあいい。  ここは優しくスルーしておいてやろう。 「じゃあ、店に入ろうか」 「う……うん」  伏見はとうとう素直に答えたけど、心なしか声の力が弱い。  やっぱちょっと落ち込んでるみたいだ、あはは。  まあ何はともあれ、伏見との面倒臭いやりとりも卒なくこなすことができた。  伏見と一緒に店内に入ると、俺たちの姿を見つけた有栖川が、こっちを向いて手を挙げた。 「あっ、伏見ちゃーん! いらっしゃーい!」  有栖川は満面の笑みでトテテテっと駆け寄ってきて、伏見の二の腕にガバッと抱きついた。 「あれ? 有栖川って、伏見と仲良かったっけ?」 「ううん。初めて話す〜」  なんと。  なんたるフレンドリーさ。  有栖川は女子にも距離感ゼロなんだ。  さっきは俺に気があるのかと勘違いした。  ちょっと恥ずかしい。 「じゃあ座ってお話、しよー」  有栖川はニコニコしながら伏見の腕を引いて、嵐山の隣に伏見を座らせた。 「えっ……?」  伏見はきょとんとしてる。  そして有栖川は俺の背中を押して座席に座らせると、自分はちょこんとその隣に座る。  嵐山と伏見が隣同士。  その対面に俺と有栖川。  そんな座席配置になってしまった。  ──というか、有栖川が、そうした。 「今日は東雲(しののめ)君と伏見ちゃん、二人も仲良くできて嬉しい〜」  有栖川は大層嬉しそうに、俺に肩を寄せてくる。  ホログラムは相変わらず見えないから、本心がなんなのかわからないけど。  それに対して、クールな表情のままの伏見の本心は── 『なにあれー? なんで有栖川さんが、勇介君にべたべたするの? ムカつくー ウッキーッ!』  ウッキーッって……  小猿かよ。  まあ相当イラついてるのはわかる。  だけど表面上は至ってクールだ伏見京香。  嵐山がちょっと不満そうな顔で、有栖川に訊いた。 「なんだよ有栖川さん。この二人と仲良くなりたかったのか?」 「うん。私ねぇー、クラスのみんなと仲良くしたいんだぁ。でも特にこのお二人さんとは、仲良くなりたいっ!」  有栖川はVサインをしながら、俺と伏見の顔をチラチラっと見た。 「なんで?」 「なんでって嵐山くんっ! 決まってるじゃん!」 「なにが決まってるんだよ?」 「学年イチの超絶美少女、伏見ちゃんってどんな子か、興味ありありー」  どんな子って……  へたれでクールキャラを完全に勘違いしてる、ポンコツ野郎だよ。 「じゃあ勇介のことはなんで?」 「東雲(しののめ)君は……いや、もう仲良くなったし、今日からは『勇介ぴょん』って呼ぶよー」  ──いや、もう仲良くなったって認識かよ。勝手に変なあだ名で呼ぶな。 「勇介ぴょんは、とーっても優しそうでカッコいいから、前から興味があったんだぁー」 「はっ? 勇介が優しそうだって? ないない! コイツの中身は、単なるスケベ男だよ」 「おいっ、嵐山!」 「あっ……いやあ、悪りぃ悪りぃ」  悪りぃじゃねぇよ。  スケベ男はお前だろ。  体育の時に、有栖川の巨乳に見とれてたのはどこのどいつだ?  ──お前だよーっ!  まあ俺もスケベは、否定できないけど……  伏見にまで、俺の印象が悪くなったらどうすんだ?  そう思って向かいの席の伏見を見たら、きっつい目線で俺を睨んでやがる。  やっべぇ。  伏見って真面目そうだから、エロとかスケベへの耐性が低そうだもんな。 「へぇー 勇介ぴょんってスケベなんだぁ……?」  有栖川が見上げるように俺の顔を覗き込んできた。  ちょっと鼻にかけた、甘えるような喋り方。 目を少し細めたエロい表情。  そして──  巨乳を強調するように胸を突き出して、身体をずいと寄せてくる。  ちょいちょいちょい!  やべーよ!  まるで俺を誘ってるみたいだ!  コイツはいったい何を考えてるのか? 「あっ……俺って、そんなにスケベに見えるか?」 「さあ、どうだろねーうふふ。男の子なんて、みんなエッチなんだから、それでいいよねぇ」  うわっ!  悪戯っぽい笑顔!  そして甘ったるい声で、男のスケベを容認する発言!  こりゃ、やべぇ。  ほとんどの男子がやられちまうパターンだ!  核弾頭並みの破壊力!  有栖川は無意識にこんな態度なのか、何か狙いがあるのか……  ──有栖川のホログラムが見えないから、全然真意がわからん!  しかしどっちにしても、今は伏見の突き刺すような視線が痛い。  なんか修羅場の予感がぷんぷんする。  ちょっと身を引いて、伏見をチラッと見た。  一見無表情に見えるけど、こめかみがピクピク動いてる。  めっちゃ怒ってるんじゃないのかー!?  俺は恐怖に身を震わせた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加