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袋の口はきちんと折りたたまれ、表には何も書かれていない。横幅は十センチほど、縦は十五センチほどの、小さな無地の袋だった。
「誰かが置いていったってことか?」
「たぶん。あの音はこれに気づかせるためだったのかも。周りには誰もいなかったから、幽霊の仕業じゃないとすればドアを叩いてすぐに逃げていったんだろうね」
「それ、置いていったっていうより、捨てていったってことじゃないのか」
つい先日、近所にある酒屋の主人から、裏口に捨てられていた仔猫を飼うことになったという話を聞いたのを佐貴は思い出した。
秋重もまた同じことを思い出したらしく、
「とりあえず、生き物ではなさそうだよ。動かないし、持った感じそんなに重くもないから。まあ、ネズミの死骸とかだったらわからないけどさ」
「やめてくれ」
途端に目の前の紙袋がおぞましい物体に見えてくる。秋重は袋に鼻を近づけて、
「変な臭いもしないから、たぶん大丈夫だと思うけど」
そう言って袋に手を伸ばした。危険物の可能性もないとはいえない。「待った」と佐貴は止めようとしたが、遅かった。
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