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ふと、手の中にじんわりと温かさを感じた。
両手に包んだ卵形のケース。自分の体温が伝わってそう感じただけかもしれない。けれど佐貴には、飛野が励ましてくれているように感じられた。
――相棒なんだろ? だったら頑張って『不辛』にしてやれよ。
そう言われているかのように。
「だな」
応え、佐貴はぎゅっと不辛の卵を握りしめる。そしてそれを、カウンターの上に戻した。
まずは、演奏を終えるアーネストのために紅茶を淹れてやろう。コーヒーを飲みたがったのはたぶん、飛野に合わせてのことだろうから。
《リーベル》のマスターとして、自分がやるべきこと。一番得意なこと。
彼のために、とびきりおいしい紅茶を淹れてやるのだ。
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