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「で、天使様が何の用だ」
ダイニングテーブルに備え付けられた椅子にぐったりと座って、樹は『天使』に声をかけた。
ちなみにこの前に「あ、お茶はほうじ茶で構わないっすよ」「ねえよ、そんなの」「じゃあ緑茶で」「麦茶しかねえ」「え、ダージリン…」という問答が繰り広げられている。
口調も少々悪くなるというものだ。そもそも樹は疲れているしなにより眠い。
「寿命はまだまだな気でいるが?」
「それがそうでもないんっすよね~」
氷の揺れる麦茶のグラスを傾けながら、聞き捨てならないことをさらりと言う。
さすがに、机に突っ伏していた樹も顔をあげた。
「佐渡さんは、今日から548日後に自殺します」
「はぁ?」
「大体1年半後っすね!」
「そこじゃない」
「?」
「自殺する気は微塵もなければ、心当たりもないが?」
「あれ、そうなんすか」
ゴッリゴッリと氷を噛み砕きながら天使がちょっと驚いたように言う。
全く緊張感がない。
だがそのおかげで樹も落ち着きを保てる。
「俺の自殺云々は取り敢えず置いといて、それでなんでお前がここに?」
「や、なんか、貴方の自殺の後、後追い自殺が半端ない件数起こるんです。未遂も含めるともっとすごい数。それを防ぎたい『上』の方々は『お前暇ならちょっと過去に行って止めてこい』って」
「ああ……」
情報量が多すぎて、気の抜けた声しか出ない。
目を閉じたまま頭を抱える樹。ゴッリゴッリゴリッと噛み砕かれる氷。氷のなくなったグラスを残念そうに見つめる天使。
「………わかった」
「ん?」
「俺は自殺しなきゃいいんだな。大丈夫だからお前帰っていいぞ」
「や、無理っすよ。俺1年半後まで帰れないっすもん」
「はあ?」
「意外と世知辛いんすよ、『上』の世界も。言われたからには期限まで居ないと帰れないっす」
「じゃあどうすんだよ」
「お世話になりま~す」
「ふざけるな……」
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