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「彼の収入のことで。彼には悪いですが、その、ちょっと……」
美里の辿々しい声に、黒猫の耳がピクッと動いた。
「あぁ、なるほど。お金ですか」
寿の言葉に美里は、気まずそうにゆっくりとうなずいた。
それに反応するように、さっきまで行儀よく座っていた黒猫が突然ゴロゴロと喉を鳴らした。
毛を逆立て、今にも飛び掛かりそうな雰囲気を醸し出している。
「レン、やめなさい」
レンと呼ばれた黒猫は、寿の声に軽く目を細めると、んにゃあ?と、反抗するかのような声で鳴いた。
美里はそのやり取りに不思議な顔をしつつも、「ごめんね」とレンの頭を撫でようとしたが、露骨に嫌がる仕草に手を引っ込めた。
それを見た寿は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「良いアイデアがあります」と言って、おもむろにレンを掴む。
にゃあ?
ジタバタするレンに何やら耳打ちをすると、「しばしお待ちください」と言い残し、カウンターの後ろにある戸を開け、奥へと消えて行く。
まるで言葉が通じあっているかのようなやり取りに、美里が呆気にとられていると、カウンターの奥から寿の声に混じって男性の声がした。
しかし、コソコソと話しているようで聞き取れない。
一人ではないのだろうかと耳を澄ましていると、何やらポンッと間抜けな音が聞こえた。
「違う! ゼロが一つ足りない!」
寿の声がする。すると、また音がする。
「違う! それは昔のやつ!」
ますます気になった美里は、カウンターの奥を覗こうと目を細めた。木の扉は隙間が大きく、光が溢れ出している──。
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