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「借金取りかどうかは分からないけど明らかに普通の人じゃ無かったよ」
「須藤は正しいと思うわよ」と綾奈。「バックのチャーム、見たこと有るでしょ? あれ、皆ブランドものよ。中学生どころか親だってあんなに沢山買えないわよ」
「えっ、あの毎日ころころ変わっていたやつが!?」
「え、じゃあ何? その……援交ってこと?」
「理香ちゃん!」
「だって他に考えられないよ。宝くじが当たったって言うなら別だけど」
「宝くじ当たったらあのボロい家建て直すよ普通は」
「じゃあ親も知らないってこと? それヤバくない? だとしたらもう誰も助けられないよ」話が延々と続いて行く。その速さに清花は置いてけぼりをくらった。当事者の居ない、預かり知らぬ場所でこんなに話が、まるで確固たる事実のように語られ周知されつつ有る状況に清花は麻里亜の机に眼を向けたあの一瞬を後悔した。
「香ちゃん、どうなさいましたの?」今度は清花が問う番だ。清香は理香たちの憶測話に加わらずぼうっ、と思案にとらわれていて清花が声をかけたことによって解放されたように見えた。
「ううん、何でも無い」
月曜日は本来剣道部の活動日だが顧問の先生方の言い付けで男女部員総出で部室を掃除することになった。部室は毎年部員と荷物が入れ替わり、ロッカーは掃除するがそれ以外の掃除はほぼ手付かずだ。
「ううっ、どうしてこんな寒い日に……」と副部長で先鋒の橋本奈緒美がジャージの腕を捲りロッカーの上の埃を払いながら恨み節を吐いた。
「奈緒美ファイト! 掃除終わったら良いこと有るから!」と部長で中堅を任されている菊池恵里菜が元気にガッツポーズをする。
「良いことって何ですかー!」と一年生部員の太田有紗が叫んだ。彼女の手にはトング、それが黴がびっしりと生えたかつては布類だったものを掴んでいる。
「そう言うものは全部ゴミ袋! ゴミ袋に入れて!!」と恵里菜が絶叫した。
他にも役目を果たせるのか否なのかもはや分からない中身が入ったままの消臭スプレーや汚れが染みに変わって名前が読めなくなった名札や昭和時代の剣道部員がつけていたらしい練習ノートがロッカーの裏や上から見つかった。男子剣道部ではコンビニで売っているアダルト雑誌が見つかったそうだ。掃除を終えた後の白原たちは清花たちと眼を合わせずそわそわしていたから見つかったのは雑誌だけでは無いのだろう。ロッカーの裏と上といい、棚の裏といい、あまりにも意図的で部員がわざと隠したように思える。それを後年の部員が見つける姿は大掃除という自発的行動では無いとはいえまるで宝探しだ。
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