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「絶対、同じお客様なんだって!」
休憩室に入るなり、同期の溝口を見つけた。
「翔太、笑顔が消えてるぞ、ブライダルプランナーさん」
冷静でいられるわけがない。俺は急いで相田という女について話し始めた。
「三ヶ月前と同じ客が、ウエディング相談に来たってこと?」
「そう! なのに、別のおっさ……お連れ様を連れていたんだよ!」
「ふーん」
昨年まで俺と同じウエディング担当だった溝口は、会社のパーティーなどの進行を受け持つ宴会部署に移ってから、どこか反応が鈍い。
結婚という、人生の一大イベントを受け持っていた時は、失敗できない責任感からかもっとピリピリしていたのに。
「なら、別の男に乗り換えたんだろ」
「……そう言ったらそうだけど」
「数ヶ月で破綻なんて、よくあることだろ?」
溝口はからりと笑う。
男女関係なんて熱するのは早いけど、冷めるのは一瞬。その通りだ。
「で、前の契約は前金済だったの?」
「実は、さっき調べたんだけど」
顧客管理リストを調べ、三ヶ月前に相田若葉という名前を探したが、どこにも見当たらなかった。
代わりに、同時期の新規登録をすべて当たると、今井香菜、という名前が記された相談シートを見つけた。流れるような文字は、件の相田という女のものとよく似ていた。
うちの最上級コース「パール」で前金20万円振込済どころか、挙式・披露宴費用の半額まで支払い済だった。
「挙式当日の三ヶ月前を切っていたから、費用の2割頂いてる」
「わー、もったいねぇ」
「しかも、キャンセルされたのは先週。その女が今週、新規の客として来たんだよ」
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