ブライダルプランナー 1

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ブライダルプランナー 1

 女が真正面に座った時、思わず笑顔が崩れた。 (この女、前にも見た)  都内ホテルのブライダルサロンに勤めて5年目。婚約もしくは籍を入れているカップルを相手に、俺はいつも通り披露宴の三段階コース『フローラル、アクア、パール』を案内していた。 「初めてだから迷うなぁ」  借り物のドレス生地のように白い顔した女が、未来の夫の肩にしなだれかかる。  三十歳位だろうか。ムラ無くファンデーションを塗りつけた肌に、二重の溝がはっきりと刻まれ、小ぶりな鼻は筋が通っている。恐ろしい程の美人はずっと微笑んでいる。 「好きに選んでいいよぉ」  にこにこ、いや、にやにや笑う新郎は、どんなに若く見積もっても二十歳は年上で、並ぶと父娘に見えなくもない。  光沢ある女のリップは弾力があり、その唇でおっさんに吸い付くのか、と思うとめまいがした。 (誰が誰と結婚しようと勝手だけど)  営業スマイルを戻しつつ、俺は受付票に書かれた女の名前を確認する。  相田若葉(あいだわかば)。  流れるような筆跡に、俺はふと、三ヶ月前にカウンター越しに、この相田という女のブライダル相談したのを思い出した。 (……その時は、全く別の男を連れていた)
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