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 欲求不満の状態で三日も寝込んでいた心は限界だった。 優馬が誘いに応じてくれる気配がないので、どうしようかと考えながら午後の授業を受けていたが、体調はみるみる悪化した。 授業中いっぱい悩んだ挙げ句、けっきょく香川に連絡をした。  放課後、玄関先にしゃがみこんで待っている心の前に、すぐに香川が姿を現した。 珍しくひとりだった。 心は少しほっとする。 とりあえず、先日のように集団リンチされるということにはならなさそうだ。 「最初から素直に言うこと聞いてればいいのにね。お前もたいがい頭悪いよな、」  香川は無表情のままそう言いながら、心の前で立ち止まるでもなく、玄関に向かう。 心は少し動いただけで息が上がって、自分の体に嫌気がした。  もう今すぐにでも香川にすがりついて助けを請いたいくらいだったが、胸の奥底にあるプライドの残り滓みたいなもののために、どうにか立ち上がってあとを追った。 「なに、だいぶ具合悪そうじゃん。また弟に遊ばれたの、」 「るっせ、」 心はふいっと顔をそむけた。  心と香川がPlayのパートナーになったのは昨年の夏頃だった。 心のほうから誘った。  当時、一年生だった香川は、優馬ほどではないが既に名前が知れていて、一年生の機械科をほとんど掌握していた。 しかしそれでもまだ三年生の力が強かった。  それに、ダイナミクス性の性質的に、支配側に立つ人間にはDom性が多い。 それは円の中心へ行くほど顕著だ。 単純な力がものをいう環境では、喧嘩の強さだけじゃなく、Domのランクも求められた。  だから香川は、Switchという特殊な性別のためにずいぶん苦労していた。 そのことを、心は少し知っている。  そして同時に、香川は心の家庭環境について、少しだけ知っていた。
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