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ふたりの関係が発展したのは、夏休みに入ってからだった。
二次性の欲求には個人差がある。
優馬のように、欲求が全くないというのは珍しい方だが、ほとんどないとか、あっても抑制剤を服用していれば問題ない、という人も多い。
陽夏瀬は、二次性が発現したばかりのせいか、欲求の強さも頻度も不安定だった。
休み中は陽夏瀬の母親がいつも昼食を誘ってくれて、食べ終えると優馬はそのまま陽夏瀬の部屋で過ごした。
陽夏瀬はローテーブルに向かって真面目に宿題の冊子にシャープペンを走らせていて、優馬はその脇で、ごろんと横になってだらだらと漫画を読んでいた。
Sub性の診断がされて以降、陽夏瀬の体調には波があって、その日もあまり調子は良くなさそうだった。
突然、陽夏瀬がテーブルの上に突っ伏したので、優馬は心配になって起き上がった。
「陽夏瀬?」
力の抜けた陽夏瀬の指先から、シャープペンが落ちて、床に転がり落ちる。優馬はそれを拾ってテーブルの上に戻しながら、陽夏瀬の背中に手をあてた。
「体、辛い、」
そうつぶやいた陽夏瀬は声を出すのも億劫そうだった。
優馬がゆっくりと背中をさすると、陽夏瀬はテーブルに頭を預けたまま、少し首をひねって見上げてきた。
その目もとは少し赤らんでいる。
「大丈夫、」
「大丈夫じゃない、」
不満そうに答える陽夏瀬に、優馬は苦笑した。
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