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父親も母親も若い頃にかなりやんちゃをしていたらしいし、姉もちょっと前までレディースだった。
だから血筋的に、喧嘩の才能はあったのかもしれない。
小学校を卒業する頃には、優馬はもう喧嘩で負けるということはほとんどなくなっていた。
そんな中、陽夏瀬だけが昔から優馬の友人だった。
傍にいれば危険なことに巻き込んでしまうこともあったから、中学に進学した頃、優馬は陽夏瀬から距離を置こうとしたのだが、陽夏瀬は優馬から離れようとしなかった。
そして今もまだ、優馬と陽夏瀬は一緒にいる。
いつしか優馬にとって陽夏瀬は他の何にも代えがたい存在になっていた。
本当は友人と呼ぶには軽すぎる。
親とか兄弟みたいに、普遍的で特別な呼び方があるのなら、きっとそうしていた。
しかし、血の繋がりのないふたりが、ただ数年一緒に過ごしてきたというだけの関係性につける名前は、友人くらいしか使えるものがない。
「陽夏瀬、」
優馬がもう一度呼びかけると、陽夏瀬はおもむろに体を起こして、ふらりと優馬の方へ手を伸ばした。
もたれかかってきた陽夏瀬の体は少し熱っぽい。
「Safe word、決めておく?」
優馬は陽夏瀬の頭を撫でながら、静かに確認した。
陽夏瀬はゆるく首をふる。
「優馬のこと信じてるから、いらない、」
「そういうことでもないと思うんだけど、」
「いいの、」
「……じゃぁ、キツかったり、止めたかったら、二回、呼んで、」
陽夏瀬はちょっと考えるように優馬の顔を見つめていたが、やがて、納得したように小さくうなずいた。
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