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 委員会など何でもいいと思って、二学期が始まってすぐにあった委員決めの時間をサボったのが良くなかった。  面倒な保健委員を押し付けられた大橋(おおはし)優馬(ゆうま)は、クラス全員の身体測定の結果を抱えて保健室に向かいながら、盛大にため息をついた。  保健室はなぜか校舎の一階の長い廊下の一番奥にある。  もっとも、不良ばかりが集まると地元で有名な工業高校で、本当に具合が悪くて保健室を利用する生徒などほとんどいないから、行きづらい場所にあったところで支障があるわけではない。 問題があるとすれば、保険医がほとんど不在にしているせいで、一部の生徒が平気でサボるのに使用していることくらいだ。  四階にある二年生の教室から、一階の奥の保健室までやっとたどり着いた優馬は、そのドアに手をかけようとして眉を顰めた。  中から、声が聞こえた。  優馬はもういちど長息した。  それから、わざと大きな音をたててドアを開ける。  室内にはいくつかベッドが設置されているが、そのうちのひとつがカーテンで覆われていて、人の気配があった。  優馬は気にせずに、書類を持って机のある方へ足を向けた。  カーテンの向こう側から見知らないひとりの男が現れて、不機嫌そうに優馬を一瞥して保健室を出て行った。 書類を保健室に届けることが目的だった優馬も、用事は済んだのですぐに戻ろうと思ったが、中途半端に開いたままのカーテンの隙間から見えた白い足が気になって、つい、ベッドのほうへ足を向けてしまった。 「おい、」  シャッ、と音をたててカーテンを開けると、ベッドの上に、金髪の男子生徒が、下肢をむき出しにしてワイシャツだけを羽織った状態で、座り込んでいた。 焦点はあっておらず、表情もどこか虚ろに見える。  それはSub(サブ)Kneel(ニール)Command(コマンド)を使用されたときに取る体勢だった。  嫌な記憶が蘇って、優馬はぞくりと背筋が冷えるのを感じた。 「おい、大丈夫か、」  もう一度声をかける。  すると彼は、ようやくゆっくりと視線を動かして優馬の姿を認めた。
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