信頼したくないSubと支配したくないDomと

５．

　そこで、数的優位など甘い考えだったことに気づいたのか、ひとりの生徒がポケットからバタフライナイフを取り出した。

カシャンという軽い音とともに、刃先が現われて優馬のほうへ向けられる。

　優馬はその銀色の鈍い光を冷たく睨みつけると、挑発するように顎を上げ、嘲笑した。

　刃物を持った生徒は、怒りのためにGlareを発したが、優馬はGlareでは応じない。

　強いGlareを持つ優馬に対し、格下のDomによるGlareの威嚇はまったく効果がなかった。

しかし、なぜ威嚇が効いていないのかということについて、既に激高している相手が冷静に考えられるはずもない。

怒りにまかせて飛びかかる男の動きは単調だ。
優馬はナイフの切っ先がたどる軌道を視覚ではっきりと捉えた。

確実に刃を避けると、相手の胸ぐらを掴み、あっというまに地面にねじ伏せる。
容赦なく腕を締め上げると、骨のきしむ音とともに男が低い悲鳴をあげた。

カランッと軽い音をたてて男の手からナイフが落ちる。
優馬はそれを、屋上の柵のほうへ向かって足で蹴り飛ばした。

「ぐっ、う、くっそ、……」

　関節を拗じられる痛みに男は顔を歪ませている。

優馬はふっと腕を離すと、弛緩した相手の腹を思い切り蹴り上げた。
ごふっ、と鈍い悲鳴とともに、その生徒の意識が落ちる。