6.その後

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 小さい頃によく、上級生にぼこぼこにされて帰ってきた優馬の傷口に、姉が大笑いしながら、薬を塗って絆創膏を貼ってくれたのを、急に思い出した。  まだ体が小さく喧嘩などできなかった優馬は、複数人に絡まれてよってたかって殴られた。 元レディースで喧嘩も強い姉が、かたきを取ってやると慰めてくれるどころか、負けた優馬を笑い飛ばすから、とても腹立たしかったのを覚えている。  心の傷は、臀部から太もものほうまで続いている。 どうしようかな、と考えながら手を伸ばしかけて、やめた。 シャツを戻して、もう一度布団を肩までかけなおす。 「芹沢、」 聞こえているかはわからなかったが、優馬は静かに声をかけた。 「薬と水、ここ置いておくから、痛み強かったら飲んでおけよ、」  反応はない。  優馬はしばらく心の様子を見ていたが、やがて立ち上がると、スマホと財布をポケットに突っ込んで部屋を出て、玄関に向かった。
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