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突如降り出した激しい雨。近くで鳴る雷。
雨でかすむ視界の中、由芽は神社の軒先へと走った。
社の扉は開いており、暗闇がのぞいている。制服が濡れているせいか、微かな寒気を覚えた由芽は一度ぶるりと体を震わせた。
そして、
「しばらく雨宿りさせてください」
と社に向かって頭を下げた。
すると社殿の奥から突然、
「ねえ」
と柔らかな女性の声が聞こえてきた。猫が鳴いた時のような声。
由芽は驚きに目を開き、社の暗がりに目を凝らす。
「ここだよ」
とまたも声が聞こえ、何かが動く気配がする。
由芽は不審に思いながらもなおも目を凝らしていると、稲妻がカッと光った。
その一瞬の光で、ようやく正体を見てとることができた。
それは少女だった。由芽と同じくらいの年齢の少女が、手を振っていた。
不気味さを感じたものの、自分と同じく雨宿りだろうか、と由芽は思いつつ少女を見る。
視線が合ったことに気付いたのか、少女は笑みを浮かべ口を開いた。
「こんにちは、私はヤコ」
「ヤコ……」
「うん、ヤコ」
「あ、えっと、水野由芽」
「ヤコ」という名前に、記憶の底で何かがうごめく感覚を覚えながらも、由芽は応える。
「そこだと雨当たるでしょ。こっちに座りなよ」
というヤコの言葉に由芽は社に入ってもいいものかと戸惑い、「でも」とつぶやく。
しかしヤコは「大丈夫」と言ってにっと笑う。
由芽はためらいながらも濡れた靴を脱ぎ、おずおずとヤコの隣に来て座った。少し距離を空けて。
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