序章

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 本陣では総大将が軍師に(いくさ)の塩梅を尋ねていた。 「首尾はどうか」 「全く以ての互角の戦い。ですが、先刻になり乱破(らっぱ)(忍者)より、国友村の鉄砲衆三千人が鉄砲と大砲を持ちこちらに到着。数刻後にはもう敵軍は蜂の巣かと」 「ほう、あの噂に名高い鉄砲衆か。鉄砲衆に助『太刀』と言うのも変な気がするのう」 「ここは確実に勝たねばなりませぬ。もう刀や槍や弓や馬の腕で(いくさ)に勝てる時代ではないのです」 「刀が武士(もののふ)の誇りで魂と言うのも戯言か」 「ええ、悲しいながら」 「この(いくさ)が終わり次第、根来、国友、堺(上記三ヶ所は鉄砲の生産地)を押さえよ。奴らは死の商人、金さえ貰えばどこの大名にも節操なく鉄砲を売りおる。実に卑しい奴らだ」 「まことで御座います」 「いつかは火縄無しで、かつ小型で一発一発先込め式ではない鉄砲の開発を成し遂げたいものだ」 「剣や槍の腕が関係無くなる平等な世で御座いますか」 「天下統一を成し遂げた暁には新型の鉄砲で平和を作りたいものよ」と、総大将が機嫌よくパタパタと扇を扇いでいると、乱破(らっぱ)より報告が入る。 「失礼します」 「何事じゃ」 「敵兵団、本陣に向かってきます。数にして約二千」 総大将は南蛮渡来の望遠鏡で乱破(らっぱ)に教えられた方向を覗いて見た。確かに足軽の集団が本陣に向かって来るのが見えた。それを見て総大将はニヤリと口角を上げた。 軍師はすぐに進言に入る。 「敵は鋒矢の陣での一点突破を狙っている腹心算(はらづもり)、現在の鶴翼の陣では対処が出来ませぬ。鋒矢の陣の先端が突破されれば一気に殿の元へと食らいつかれるのは必定! 魚鱗の陣へと切り替え、守備(まもり)を固めて(けん)に徹し、姑息にその場を凌ぐことを上申致します」 総大将は軍師の頭を閉じた扇でパシリと叩いた。軍師の金柑頭に小さな痣が付く。 「(いくさ)と言うのはな、弱気に守りに出た方が負けるものだ。軍師、そなたは臆病風に吹かれておる」 「臆病だからこそ、生き残れたので御座います」 「フン、よくも言う。陣は鶴翼の陣のまま! 鶴翼の陣の先頭に鉄砲を与えい! すぐ撃てるようにしてな!」
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